2025年8月28日
突然の吐血は、多くの方がびっくりされると思います。中でも、胃潰瘍が原因となる吐血は、放置すると命に関わることもある重大な症状です。
この記事では、胃潰瘍による吐血の原因や特徴、症状の見分け方、そして適切な受診タイミングや治療法について、消化器内科専門医がわかりやすく解説します。命を守るために必要な知識を、ぜひご一読ください。

胃潰瘍による吐血
胃潰瘍は、胃酸やピロリ菌、ストレス、薬剤(特に鎮痛剤やステロイド)などによって胃の粘膜が損傷し、深くえぐれた状態です。血管を巻き込んで傷つくと出血しますが、出血量が多かったり、出血の勢いが強いと、それが食道を通って口から吐き出される吐血症状として現れます。吐いた血液は、鮮やかな赤色のこともあれば、酸化した血液が黒っぽく見えることもあります。
潰瘍が進行し血管が傷つくと、吐血や下血といった明らかな出血症状が現れることがあります。特に吐血は緊急度の高い症状であり、命に関わるケースもあるため、早急な診察と治療が必要です。「少し様子を見よう」と考えるのではなく、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。
吐血はどんな色や状態?赤い血と黒い血の違い
吐血の色や状態は、出血した場所や時間経過によって異なります。
胃潰瘍による吐血では、以下のような傾向が見られます。
-
鮮血(赤い血)
出血が食道や胃の入り口(口側、上部)から起きた場合や、出血量が多い場合に見られることが多いです。出血してからあまり時間が経過していないため、血液が酸化せず鮮やかな赤い血液として見られます。
-
黒っぽい血(コーヒー残渣様)
胃酸により血液が部分的に酸化し黒く変色した状態です。出血が慢性的に続いている場合や、胃の中で出血して時間が経過した出血や、胃の奥(肛門側)〜十二指腸での出血に多く見られます。
また、吐血と区別しにくいものとして、口腔内の出血や喀血(肺や気道からの出血)もあります。血の色や状態は、出血の原因を推測する重要な手がかりとなるため、医師にできるだけ詳細に伝えることが大切です。
胃潰瘍が原因で吐血する理由
胃潰瘍が原因で吐血するのは、潰瘍により胃の粘膜だけでなく、その奥の血管まで傷つけてしまった場合です。
胃は通常、強い胃酸に耐えられる粘膜で守られていますが、以下のような要因でバランスが崩れると、粘膜が損傷して潰瘍ができます。
-
ピロリ菌感染
-
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用
-
強いストレス
-
アルコールや喫煙の習慣
-
不規則な食生活
潰瘍が血管にまで及ぶと、出血が起こり、胃内容物とともに血液が混じって吐き出されることがあります。少量ずつ出血している場合は気づきにくく、貧血や黒色便で気づくこともあります。
一方、血管が破れて大量に出血した場合は、急に真っ赤な血を吐く、あるいは吐いた物がコーヒー残渣のように黒いといった明らかな症状が出ます。
また、通常の潰瘍は「粘膜がえぐれて深く掘れる」ことにより起こりますが、胃や十二指腸の粘膜のすぐ下を通る「異常に太い動脈」が、粘膜の表面に露出して運悪くこれが破綻することで起こる「デュラフォイ潰瘍(Dieulafoy潰瘍)」と呼ばれる病態があり、血管の破裂が原因で大出血を起こすのが特徴です。
突然の大量出血(吐血・下血)で発症することが多く、緊急の処置が必要となるため、早期の受診が重要です。
吐血したらどうすればいい?自宅での対応と受診の目安
突然の吐血があった場合、まずは落ち着いて状況を把握することが大切です。
以下のような対応を行いましょう。
自宅での対応
-
安静にして、頭を少し高くして横になる
-
吐いた血の色・量・回数を確認してメモする
-
飲食は控え、特に刺激物や水分の摂取を避ける
-
血を吸い込まないよう、仰向けではなく横向きにする
受診の目安
基本的に吐血症状があった場合は、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
特に緊急の処置を要する場合が多いため、可能であれば日中の早い時間帯に受診すると良いでしょう。
特に下記のような症状があれば、すぐに医療機関を受診しましょう。
-
吐いた血の量が多い、もしくは繰り返している
-
黒い血やコーヒー残渣様の嘔吐がある
-
血圧の低下、ふらつき、意識がもうろうとしている
-
顔色が悪い、動悸・冷や汗などの症状がある
軽度の吐血であっても、自己判断せず専門医の診察を受けることが大切です。
すぐに病院に行くべき症状とは
胃潰瘍による吐血は、命に関わる可能性があるため、迷わず病院を受診してください。
また、胃潰瘍以外にも食道・胃静脈瘤やマロリーワイス症候群など様々な病態で吐血症状は起こりえますが、どの疾患においても緊急の処置を要する可能性が高いことには変わりありません。
-
大量の吐血(コップ1杯以上の血液)
-
嘔吐が止まらず、繰り返し血を吐く
-
血圧の低下(立ちくらみや意識がもうろうとする)
-
動悸・冷や汗・手足の冷たさなどショック状態の兆候
-
黒色便(タール便)や便に血が混じっている
-
胃の激しい痛みや圧迫感
これらの症状は、出血性ショックを起こすリスクや、重度の貧血症状の可能性があります。
可能であれば日中早い時間帯での受診が望ましいですが、発症時間が夜間の場合は、救急外来や夜間診療を利用してでも、できるだけ早く医療機関を受診してください。
時間をおいて様子を見ようとするのは非常に危険です。早期の対応が、命を守ります。
胃潰瘍による吐血の診断方法
胃潰瘍による吐血が疑われる場合、まずは症状や既往歴を詳しく問診し、検査が行われます。
特に重視されるのが以下の診断方法です。
内視鏡検査(胃カメラ)
胃の中を直接観察し、出血の原因や部位を確認します。出血点が特定できれば、その場で止血処置も可能です。
血液検査
貧血の有無、出血量の推定、感染や炎症の有無を確認します。
腹部CT検査
内視鏡では出血点を同定できない場合や、止血困難な場合、その他の合併症が疑われる場合に有用です。
治療方法と入院の必要性について
胃潰瘍による吐血の治療は、出血の程度や全身状態に応じて決定されます。
基本的には以下のような治療が行われます。
主な治療法
-
内視鏡的止血
胃カメラを使って出血部位を特定し、クリップや薬剤で止血します。最も一般的で効果的な治療です。
-
薬物療法
プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸分泌を抑える薬で、潰瘍の悪化を防ぎます。ピロリ菌感染がある場合は除菌療法も行います。
-
輸液・輸血
大量出血時には点滴や輸血で循環を安定させます。
-
IVR(Interventional Radiology:血管内治療)
内視鏡で止血困難、または再出血を繰り返す場合にIVR(血管内治療) が適応となります。血管造影を行い、出血源となる血管を特定し、カテーテルを使って該当血管を塞ぐ処置をします。
-
外科手術
IVR(血管内治療)でも止血できない、または再出血を繰り返す場合や、出血量が多く、ショックを繰り返すなど全身状態が悪化している場合、その他、潰瘍により消化管穿孔(穴があく)があったり、潰瘍が悪性腫瘍による場合などには外科的な処置が検討されます。
入院が必要なケース
-
出血量が多い
-
全身状態が不安定(ショック状態や重度の貧血)
-
再出血のリスクが高い
軽度の場合は外来で治療可能な場合もありますが、吐血を伴う中等度以上の胃潰瘍では多くの場合入院が必要になります。
まとめ
胃潰瘍による吐血は、命に関わることもある重大な症状です。赤い血や黒い血を吐く場合には、胃や食道などの消化管で出血が起きている可能性が高く、速やかな受診が必要です。出血の原因としては、ピロリ菌感染や薬剤、ストレスなどがあり、早期の診断と治療によって予後を大きく改善できます。
吐血が起きたときは、安静を保ち、吐血の量や色などを記録し、すぐに医療機関を受診しましょう。特に意識がもうろうとする、動悸がするなどの症状があれば、救急対応が必要です。少しでも異変を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。
よくある質問
吐血は消化管からの出血が原因で、緊急性が高い症状です。安静にし、飲食を控えてください。大量の吐血や意識がぼんやりする場合は、迷わず救急車を呼んでください。少量でも続く場合は、速やかに消化器内科を受診しましょう。
吐いた血の色や量、混ざっているもの(血の塊・食べ物など)を確認してください。鮮やかな赤い血か、黒っぽい血(黒褐色)なのかも重要な情報です。また、持病の有無や常用薬の有無についても診断の上で非常に重要な手掛かりとなりますので、受診時に医師に伝えるようにしてください。
吐血の性状は出血部位や出血量、経過時間によって変化するため、参考所見にはなりますが、他の原因との区別は困難です。最終的には内視鏡検査で出血源を直接確認することが必須となりますが、診断には追加の情報として病歴(薬剤歴、アルコール、既往歴など)、身体所見(血圧、脈拍、ショックの有無)、血液検査(貧血、肝機能、凝固系など)も参考になります。
まずは内視鏡検査で出血部位を確認し、止血処置を行います。その後、胃酸を抑える薬で潰瘍の治癒を促します。出血量が多い場合は、点滴や輸血、IVR(血管内治療)、外科手術などが必要になることもあります。
吐血の原因には、胃潰瘍のほかにも以下のような病気があります。
-
十二指腸潰瘍
胃潰瘍と同様に出血することがあります。
-
食道静脈瘤破裂
肝硬変などで静脈が腫れ、破れると大量出血します。
-
胃がん・食道がん
がんが進行すると出血することがあります。
-
急性胃炎
薬やストレス、感染などで胃粘膜が荒れて出血します。
-
マロリーワイス症候群
激しい嘔吐で食道の粘膜が裂け、出血します。
いずれも早期の診断・治療が重要ですので、吐血があった場合は速やかに受診してください。