2025年11月18日
健康診断でピロリ菌陽性と判定されても、実際にはピロリ菌に感染していない「偽陽性」のケースがあります。
偽陽性が起こる理由はいくつかありますが、検査の種類や方法、過去の除菌歴なども関係しています。不必要な治療を避けるためにも、陽性判定を受けた際の正しい対応を知っておくことが大切です。
この記事では、ピロリ菌の偽陽性はなぜ起こるのか、どのように対処すればよいのかをわかりやすく解説します。

ピロリ菌の偽陽性とは

偽陽性とは、実際にはピロリ菌がいないのに、検査で「陽性」と判定されることです。
一般的に健診や人間ドックのオプションで採用されることの多い血清抗体検査(EIA法やCLEIA法など)では、ピロリ菌そのものではなく、体が作る「抗体」を測定します。
この抗体は、過去に感染していた人や、除菌治療が成功した人の体内にも長く残るため、感染がすでにないにもかかわらず陽性となる場合があります。
また、抗体値がカットオフ値(陽性・陰性の境界)付近の「軽度陽性」や「グレーゾーン(=陰性高値)」では、偽陽性の可能性が高くなることが知られています。
したがって、本当に感染しているかの確認方法は、血清抗体検査の結果は単独で判断せず、除菌歴や胃カメラで胃の状態を直接観察すること、尿素呼気試験(UBT)などの結果を総合的に評価することで、正確な診断が可能になります。
偽陽性例が増えている3つの理由
1.健康診断で血液検査が普及した
健康診断や人間ドックでピロリ菌検査を受ける方が増えました。
多くの健診施設では、血液検査を採用しています。健康診断で使われる血液検査は、ピロリ菌そのものを見ていません。体がピロリ菌と戦うために作った「抗体」を測定しています。
この抗体は、ピロリ菌がいなくなった後も長く体に残ります。
そのため、除菌後や自然感染消失後でも陽性と出てしまうことがあります。
2.過去に除菌治療を受けた方が増えた
ピロリ菌の除菌治療が保険適用になってから、除菌治療を受ける方が増えました。
除菌後も抗体は体に残り続けるため、除菌した方が増えるほど、血液検査での偽陽性も増えていきます。
抗体価がゆっくりと低下するため、除菌後1年以上経っても陽性を示すことがあるので、過去に除菌歴がある場合は、検査前の問診で検査機関にその事実をしっかり伝えておくことが重要です。
過去の除菌歴の有無も最終判定結果を左右します。
3.検査の感度設定が高い
健康診断は病気を見逃さないことが最優先です。
そのため、少しでも疑わしい場合は「陽性」と判定されることもあります。
その結果、軽微な抗体価上昇でも陽性とされ、特異度が下がる(=偽陽性が増える)傾向があります。
実際は「グレーゾーン(=陰性高値)」の症例も含め、全て「陽性」と判定している施設も存在します。
こんな場合は偽陽性の可能性が高い?
過去に除菌治療を受けたことがある
除菌治療が成功していても、抗体は長期間残り続けます。
除菌後に健康診断を受けると、陽性と判定されることがあります。
ただし、除菌が失敗している可能性もゼロではないので、除菌後の判定検査を受けていない方は、必ず医療機関で追加の検査を受けるようにしましょう。
内視鏡で胃炎の所見がない
胃カメラで胃を観察した時、ピロリ菌感染による胃炎の所見がなければ、偽陽性との可能性があります。
ピロリ菌に感染していれば、通常は胃に炎症や萎縮などの変化が現れます。
胃がきれいな状態であれば、血液検査が陽性でも感染していない可能性があります。
ただし、若年者の場合は胃炎所見がごく軽度の場合もありますし、反対に高齢者では萎縮が残っても菌が消失している場合があるため、内視鏡所見のみで感染の有無を断定はできません。総合的な評価が必要です。
陽性判定を受けたらすべきこと

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消化器内科を受診する
陽性判定を受けたら、消化器内科を受診してください。
特に過去に除菌治療を受けたことがある方は、必ずその旨を医師に伝えましょう。 -
胃カメラ検査を受ける
血液検査で陽性でも、胃カメラで胃の状態を直接確認する必要があります。
ピロリ菌に感染していれば、胃粘膜に炎症や萎縮が現れます。
胃の状態を見ることで、本当にピロリ菌がいるのか判断できます。
また、胃炎の所見を確認することによって、その後の除菌治療に保険が適用されます。 -
精密検査で確定診断する
胃カメラでピロリ菌感染が疑われる場合は、除菌治療に移りますが、偽陽性が疑われる症例や除菌後の判定が未施行の場合は、尿素呼気試験(UBT)または便中抗原検査で確定診断を行います。
いずれも保険適用の非侵襲的検査です。
まとめ
血液検査ではピロリ菌の偽陽性が出ることがあります。
陽性判定を受けたら、次のように対応してください。
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消化器内科を受診する
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胃カメラで胃の状態を確認する
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必要なら尿素呼気試験などで確定診断する
陽性判定が出た場合は、適切な検査を受けることが大切です。
また、正確な診断を受けることで、不必要な除菌治療を防ぎ、胃の健康を守ることができます。
よくある質問
個人差がありますが、抗体価が陰性化するまで平均で6か月〜2年以上かかることがあります。
中には数年以上の長期間にわたって残るケースもあります。
胃カメラや尿素呼気試験でピロリ菌がいないことを確認できれば、除菌治療は不要です。
はい、検査することをおすすめします。
血液検査だけでは偽陽性か本当の感染かを区別できません。
また、すでに胃潰瘍や胃がんなどの病変がある場合は、それらの治療や組織検査を優先する必要がありますので、まずは胃の状態を直接確認することが大切です。
再感染はほとんどありません。
日本では再感染率は年間約0.2〜1%程度と報告されています。
ただし除菌後も胃がんのリスクはゼロにはならないため、定期的な胃カメラは必要です。





