2025年12月23日
唐揚げやとんかつ、天ぷらなどの油物を食べた後、お腹がゴロゴロして下痢をしてしまった経験はありませんか。「体質だから」とあきらめている方もいらっしゃるかもしれません。油物による下痢には、体の消化の仕組みが深く関わっており、場合によっては病気が隠れていることもあります。
この記事では、油物で下痢が起こる理由、注意すべき症状、適切な対処法まで、わかりやすくお話しします。

油物で下痢になるのは本当?
結論からお伝えすると、油物で下痢になることは医学的に説明可能です。
脂肪分の多い食事は消化・吸収の過程で腸管に刺激を与えやすく、下痢を引き起こしやすくなります。
これは体質だけでなく、脂肪の消化の仕組みが関係しています。
臨床現場でも「揚げ物の後に下痢をする」という相談は比較的多いです。
一時的な下痢と病気の違い
油物による下痢には、食事内容や量による一時的な反応と、消化器疾患が背景にある場合があります。
症状が繰り返す場合は医療機関の受診をおすすめします。
なぜ油物を食べると下痢を起こしやすいのか?
油物で下痢が起こる背景には、体の消化の仕組みが深く関わっています。
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脂肪は消化に時間がかかる
脂肪は胃ではほとんど分解されません。
主に十二指腸以降で胆汁と膵酵素によって消化されます。
そのため、胃に長く留まり、胃もたれを起こしやすくなります。 -
脂肪が腸を刺激する
未消化あるいは部分的に分解された脂肪酸は、腸管粘膜を刺激し、水分分泌を促進します。この結果、便中の水分量が増え、下痢となります。
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腸の動きが活発になる
脂肪には腸の動きを活発にする働きがあります。脂質摂取は胃結腸反射や腸管運動を亢進させることが知られており、便が十分に固まる前に水っぽいまま出てしまいます。
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胆汁分泌との関係
脂肪を消化するために、胆嚢という臓器から胆汁という消化液が出ます。胆汁酸が大腸に多く流入すると、下痢を引き起こすことがあります(胆汁酸性下痢)。
油物で下痢になりやすい人の特徴
油物による下痢は誰にでも起こる可能性がありますが、特に下痢になりやすい人には特徴があります。
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普段から脂肪の少ない食事をしている人
普段あっさりしたものばかり食べていると、体が脂肪の消化に慣れていません。そのため、急に油っこいものを食べると、うまく消化できず下痢になりやすくなります。
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消化機能が低下している人
年齢を重ねると、消化を助ける成分が出にくくなります。特に高齢の方は、膵臓や胆嚢の働きが弱くなるため、脂肪の消化が難しくなり下痢を起こしやすくなります。
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過敏性腸症候群(IBS)の方
腸が敏感になっている状態では、脂肪食が腸を強く刺激してしまいます。ストレスや不安があると、さらに症状が悪化することがあります。
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胆嚢の手術を受けた方
胆嚢を取る手術をした後は、胆汁が持続的に腸へ流入するため、脂肪を食べると下痢になりやすくなります。
考えられる主な原因・病気
油物で下痢が起こる場合、一時的なものだけでなく、病気が隠れていることもあります。
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胆石症
胆嚢に石ができる病気です。脂っこい食事の後に、右上腹部痛や背部痛を伴うことがあります。
胆汁の流れが障害され、消化液の流れが悪くなって下痢を起こします。
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慢性膵炎
膵臓の炎症が長く続く病気です。消化を助ける成分が出なくなり(膵外分泌機能低下)、脂肪吸収が障害され、脂肪便(悪臭・淡黄色・浮く便)がみられます。
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過敏性腸症候群(IBS)
検査しても腸に異常がないのに、お腹が痛くなったり便通が乱れたりします。
ストレスや不安が関わっており、油物(脂肪食)やコーヒー、お酒で悪化します。 -
胆嚢の手術後
胆嚢を取る手術(胆嚢摘出術)をした後は、脂肪の多い食事で下痢をしやすくなります。消化液(胆汁酸)を貯める場所がなくなるためです。
一時的な下痢と注意すべき下痢の見分け方
油物による下痢には、様子を見ても大丈夫な場合と、注意が必要な場合があります。
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一時的な下痢の特徴
食べ過ぎや飲み過ぎの後に1〜2回程度の下痢で治まる場合は、一時的なものと考えられます。発熱や血便がなく、食事を控えれば数日で自然に改善することがほとんどです。
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注意が必要な下痢の特徴
症状が繰り返す、2週間以上長引く、体重減少・血便・発熱など他の症状を伴う場合は注意が必要です。このような場合は、胆石症、慢性膵炎、炎症性腸疾患などの病気が隠れている可能性があります。
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見分けるポイント
下痢の頻度(毎回油物で起こるか)、便の状態(色や形)、随伴症状(腹痛、発熱など)、持続期間(何日続いているか)を観察することが大切です。
油物で下痢になったときの対処法
油物を食べて下痢になってしまったときは、次のような対処法を試してみましょう。
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水分補給をこまめに行う
下痢で失われた水分を補給しましょう。常温の水や経口補水液を少しずつ飲みます。
一度に大量に飲むと悪化するため注意してください。
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消化の良い食事に切り替える
おかゆ、うどん、バナナ、りんごなど消化の良いものを選びます。
油物は数日控えましょう。 -
お腹を温める
腹巻きやカイロでお腹を温めると、腸の動きが落ち着きます。 -
安静にする
十分な睡眠を取り、無理をしないことが大切です。
病院を受診すべきタイミング
下痢で病院を受診すべきタイミングについて説明します。
すぐに受診が必要な症状
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血便が出ている
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激しい腹痛がある
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高熱(38度以上)が出ている
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意識がもうろうとする
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脱水症状がある
これらの症状は感染性腸炎や炎症性腸疾患の可能性があります。すぐに受診してください。
早めに受診したほうが良い症状
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下痢が2週間以上続く
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油物を食べるたびに下痢になる
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白っぽい便や脂が浮く便が出る
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体重が減っている
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夜間も下痢で目が覚める
これらの症状がある場合は、早めに消化器内科を受診しましょう。
市販薬について
市販の下痢止めは一時的には有効ですが、根本的な治療にはなりません。
症状が改善しない場合は医療機関を受診してください。
悪い病気でなくても、内服治療で改善できる場合があります
油物を食べるたびに下痢を繰り返す場合でも、必ずしも重い病気が隠れているとは限りません。
検査で胆石症や慢性膵炎、炎症性腸疾患などが否定され、機能的な腸の過敏さや胆汁の影響が考えられる場合には、内服治療によって症状が改善するケースも臨床的に多くみられます。
過敏性腸症候群(IBS)に対する内服治療
油物で下痢が誘発されやすい方の中には、過敏性腸症候群(下痢型・混合型)が背景にある場合があります。
この場合、以下のような薬剤が保険適用で使用されることがあります。
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イリボー®(ラモセトロン塩酸塩)[保険適用]
腸の過剰な動きを抑える作用があり、下痢型過敏性腸症候群の方に使用されます。油物摂取後の急な腹痛・下痢が軽減することがあります。
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トリメブチン(セレキノン®)[保険適用]
腸の動きを抑えすぎず、適度に整える薬で、腹痛や下痢・便秘のいずれにも用いられます。食後の腹部症状が出やすい方に選択されることがあります。
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桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)[保険適用]
体質や症状の出方によっては、漢方薬が有効な場合もあります。お腹が張りやすく、腹痛を伴う下痢を繰り返す方に用いられることがあります。
冷えやストレスで症状が悪化するタイプに選択されることが多い薬です。
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コレバイン®(コレスチミド)[※下痢に対しては保険適応外]
胆嚢摘出後や、脂肪摂取で必ず下痢になる場合には、胆汁酸が大腸を刺激して下痢を起こしている可能性があります(胆汁酸性下痢)。本来は脂質異常症の治療薬ですが、胆汁酸を吸着する作用があり、医師の判断のもとで下痢症状の改善目的に使用されることがあります(※この使用法は保険適応外であり、効果や使用可否は個々の状態により異なります)。
内服治療を検討する前に大切なこと
これらの薬物治療は、重篤な疾患が除外されたうえで行うことが前提です。
血便、体重減少、夜間下痢、発熱などがある場合は、薬を使う前に詳しい検査が必要です。
日本橋人形町消化器・内視鏡クリニックについて

当クリニックは、消化器疾患の診断と治療を専門としています。
油物による下痢をはじめとする消化器のトラブルに対応しています。
当クリニックの特徴
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消化器専門医による診療
日本消化器病学会専門医が、丁寧に診察いたします。
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内視鏡検査が可能
胃カメラや大腸カメラなど、精密な検査を行うことができます。
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土曜日・日曜日も診療
平日お忙しい方も受診しやすい体制を整えています。
こんな症状があればご相談ください
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油物を食べると必ず下痢になる
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白っぽい便や脂が浮く便が出る
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下痢が2週間以上続いている
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腹痛を伴う下痢がある
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体重が減ってきた
お腹の症状でお困りの際は、お気軽にご相談ください。 詳しくは公式サイトをご覧ください。
まとめ
油物による下痢は、脂質消化の特性により誰にでも起こり得ます。
一時的な下痢であれば心配ありませんが、胆石症、慢性膵炎、過敏性腸症候群などの病気が隠れていることもあります。
血便、激しい腹痛、発熱、体重減少、2週間以上続く下痢がある場合は、早めに受診しましょう。
「いつものこと」と放置せず、繰り返す場合は消化器内科での検査をおすすめします。
よくある質問
個人差がありますが、食後30分〜6時間程度で症状が出ることが多いです。
食後すぐに起こる場合は胃結腸反射が強い可能性があります。
一方、数時間たってから下痢が起こる場合は、消化不良や脂質吸収がうまくいかず、腸が刺激されている可能性が考えられます。
ただし、症状の出方には体質や腸の状態、食事内容による違いがあり、一概には言えません。
衣を取ることで脂肪の摂取量は減りますが、下痢を完全に防げるとは限りません。
食材自体にも油が染み込んでいるため、衣を外しても一定量の脂肪を摂取することになります。
油物で下痢を起こしやすい方は、調理方法を変える(焼く、蒸すなど)ほうが症状の予防につながりやすいと考えられます。
加齢や生活環境の変化により、消化や腸の働きが変わることがあり、珍しいことではありません。
年齢とともに、膵臓から分泌される消化酵素や胆汁の働きが低下したり、ストレスや生活リズムの変化によって腸が刺激に敏感になることがあります。
その結果、以前は問題なかった油物でも下痢を起こしやすくなることがあります。
症状が一時的であれば大きな心配はいりませんが、繰り返す場合や他の症状を伴う場合は、消化器内科での相談をおすすめします。



