餅で腸閉塞?!原因は食べ過ぎ?【専門医監修】

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2025年12月25日

お正月やお祝いの席で欠かせない餅は「腸閉塞」という病気を引き起こすことがあります。
特に高齢の方や、お腹の手術を受けたことがある方は注意が必要です。
餅は喉に詰まる危険だけでなく、腸の中で詰まってしまうこともあります。
この記事では、餅で腸閉塞が起こる仕組みや症状、対処法をわかりやすく説明します。

餅で腸閉塞?!原因は食べ過ぎ?【専門医監修】

餅で腸閉塞は本当に起こる?

餅が原因で腸閉塞が起こることは、実際にあります。
お正月の時期には、餅を喉に詰まらせる事故だけでなく、お腹の中で詰まってしまう餅が原因となる腸閉塞の症例報告が増えることが知られています。

腸閉塞って何?

腸閉塞とは、腸の中で食べ物や便が詰まって、内容物が先へ流れなくなってしまう状態のことです。
なお、かつては「腸閉塞」と「イレウス(ileus)」は同じ意味で使われることが多くありましたが、現在の医学では両者は厳密に使い分けられています。

大きく分けて2つのタイプがあります。

  • 腸閉塞

    腫瘍、癒着、食べ物の塊(餅など)といった物理的な原因で腸が塞がる状態

  • イレウス(麻痺性イレウス)

    腸の動きそのものが低下・停止し、物理的な詰まりがない状態

餅で起こる腸閉塞は、食べ物が物理的に腸を塞ぐ「腸閉塞(機械的腸閉塞・食餌性腸閉塞)」に該当します。
食べ物が詰まって起こる「食餌性腸閉塞(しょくじせいちょうへいそく)」は、全体の腸閉塞の0.3〜4.0%程度と報告されています。

喉に詰まるのとは違う?

餅による事故には、2つのパターンがあります。

  • 喉に詰まる場合(窒息)
    喉や気管に詰まって、呼吸が苦しくなります。 食べてすぐに起きます。

  • 腸閉塞の場合
    胃や腸の中で詰まります。 食べてから数時間〜1日以内に症状が現れます。

どちらも命に関わる可能性があるため、注意が必要です。

なぜ餅は詰まりやすいの?

餅は以下の性質を持ちます。

  • 粘着性が強い

  • 水分を吸収して膨張しやすい

  • 消化酵素で分解されにくいでんぷん構造

餅は、ネバネバして水を吸うと膨らむ性質があります。
温かい状態で食べても、体の中が冷えると硬くなりやすく、塊として残ることがあります。大きな塊のまま飲み込むと、腸管が狭くなっている部位(癒着部など)で引っかかりやすくなります。

餅が腸閉塞を引き起こす主な原因

餅で腸閉塞が起こるのは、いくつかの条件が重なった場合です。

ここでは、主な原因をわかりやすく説明します。

  • よく噛まずに飲み込んでしまう
    餅を急いで食べて、よく噛まずに飲み込んでしまうと危険です。
    特に、直径3cm以上の大きな餅を丸呑みすると、腸閉塞のリスクが高まります。

    義歯を使っている方や、歯が欠けている方は、噛む力が弱くなっているため注意が必要です。

  • 一度に大量に食べる
    餅を一度にたくさん食べると、胃や腸に負担がかかります。
    消化しきれない餅が腸の中で固まりやすくなり、詰まる原因になります。

    「せっかくのお正月だから」と食べ過ぎないよう、量に気をつけましょう。

  • 水分が少ない状態で食べる

    餅は水分を吸収する性質があります。
    水分が少ない状態で食べると、胃や腸の中で餅が固まってしまうことがあります。

    餅を食べるときは、お茶や汁物と一緒に食べるようにしましょう。

  • 腸の通りが悪い部分がある
    過去にお腹の手術を受けた方は、腸に癒着がある場合があります。
    癒着とは、手術の後に腸と腸、または腸とお腹の壁がくっついてしまうことです。
    この癒着がある部分は、腸の通りが悪くなっているため、餅が引っかかりやすくなります。

腸閉塞の症状とは?

餅で腸閉塞が起こると、どのような症状が現れるのでしょうか。

  • お腹の痛み
    腸閉塞の代表的な症状が、お腹の痛みです。最初は軽い痛みから始まり、だんだん強くなっていくことが多いです。
    痛みは波のように強くなったり弱くなったりすることもあります。

  • 吐き気・嘔吐
    腸が詰まると、食べたものが下に流れなくなります。
    胃の中に溜まったものが逆流して、吐き気や嘔吐が起こります。

  • お腹の張り
    腸が詰まると、ガスや便が溜まってお腹が張ってきます。
    お腹がパンパンになって、苦しく感じることもあります。

  • 便やガスが出ない
    腸閉塞になると、便やガスが出なくなります。
    いつもは出ているのに、急に出なくなったら注意が必要です。

  • 発熱
    腸閉塞が進行すると、発熱することがあります。
    熱が出た場合は、状態が悪化している可能性があるため、すぐに病院を受診しましょう。

餅の食べ過ぎで腸閉塞が起きやすい人の特徴

ここでは特に餅で腸閉塞を起こしやすい方の特徴を説明します。

  • 高齢者
    年齢を重ねると、噛む力や飲み込む力が弱くなります。
    また、腸の動きも若い頃に比べて悪くなるため、餅が詰まりやすくなります。
    特に70歳以上の方は、注意が必要です。

  • 義歯を使っている方
    入れ歯を使っている方は、噛む力が弱くなっています。
    餅を細かく噛み砕くことが難しく、大きな塊のまま飲み込んでしまいがちです。

  • 過去にお腹の手術を受けた方
    お腹の手術を受けたことがある方は、腸に癒着がある可能性があります。
    年代を問わず、手術歴がある方はリスクが高いです。

  • 早食いの癖がある方
    急いで食べる癖がある方は、よく噛まずに飲み込んでしまいがちです。
    餅は特によく噛む必要がある食べ物なので、早食いの方は要注意です。

  • 普段から便秘がちな方
    便秘気味の方は、腸の動きが悪くなっています。
    餅が腸を通過するのに時間がかかり、詰まりやすくなります。

餅で腸閉塞が疑われるときの対処法とNG行動

餅を食べた後にお腹の調子が悪くなった時の適切な対処法と、やってはいけないことを説明します。

すぐにやるべきこと

  • 食事を止める
    お腹に痛みや張りがある場合は、すぐに食事を止めましょう。

  • 安静にする
    体を動かすと痛みが増すことがあります。 横になって安静にしましょう。

  • 症状の変化を確認する
    痛みが強くなっていないか、吐き気はあるか、便やガスは出るかなどを観察します。

やってはいけないこと

  • 下剤の自己判断使用
    腸が詰まっている状態で下剤を飲むと、腸に負担がかかり危険です。

  • 無理に食べ物を食べる
    「何か食べれば治る」と考えて食事を続けるのは危険です。

  • お腹を温める・マッサージする
    腸閉塞の場合、お腹を温めたりマッサージしたりすると、症状が悪化することがあります。

  • 痛みを我慢する
    「様子を見よう」と我慢していると、症状が悪化する可能性があります。

お腹が少し張る程度で、痛みがあまり強くない場合

  • 食事を控えて、水分を少しずつ摂る

  • 安静にして様子を見る

  • 半日経っても改善しない場合は病院へ

少しでも不安な場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

病院に行くべきタイミングと検査

餅で腸閉塞が疑われる場合に病院に行くタイミングと、治療について説明します。

すぐに病院を受診すべき症状

以下の症状がある場合は、すぐに病院を受診しましょう。

  • 強いお腹の痛みが続く

  • 何度も吐いてしまう

  • お腹がパンパンに張っている

  • 便もガスも全く出ない

  • 発熱がある

  • 水分も摂れない

特に、餅を食べた後1日以内に強い腹痛が出た場合は、早めの受診が大切です。

病院での検査

  • 問診・腹部診察
    いつ、どのくらいの餅を食べたか、症状はいつから始まったかなどを聞かれます。

  • CT検査
    お腹の中を詳しく見る検査です。 餅による腸閉塞の場合、CT検査で餅が白く映るため、診断がつきやすいです。

餅はでんぷんでできているため、時間が経てば消化吸収されることが多いです。
ただし、腸が壊死している場合や腸に穴が開いている場合は、緊急手術が必要になることもあります。

なお、腸閉塞は原則として入院管理や緊急対応が必要となることが多い疾患です。

点滴治療、胃管・イレウス管による減圧、場合によっては緊急手術が必要になることもあり、診療所(クリニック)単独での対応は困難なケースがほとんどです。

そのため、腸閉塞が疑われる場合には、救急対応が可能な高次医療機関(総合病院・救急病院)の受診が推奨されます。当クリニックでは、症状や経過を確認したうえで、必要に応じて速やかに適切な医療機関をご紹介しています。

日本橋人形町消化器・内視鏡クリニックについて

当クリニックは、消化器疾患の診断と治療を専門としています。
腸閉塞は入院管理や緊急処置が必要となる可能性があるため、当院では治療対応は行っておらず、腸閉塞が疑われる場合には高次医療機関への受診・紹介を基本方針としています。

腹痛や腹部膨満などの初期症状については、状況に応じて適切な医療機関をご案内します。

まとめ

今回は、餅による腸閉塞について解説しました。

餅は、お正月の風物詩として親しまれていますが、食べ方を間違えると腸閉塞という状態を引き起こす可能性があります。

✔︎安全に餅を楽しむためのポイント

  • 小さく切って、よく噛んで食べる

  • 一度に大量に食べない(切り餅3個程度まで)

  • 水分と一緒に摂る

  • 高齢者や手術歴のある方は特に注意

腸閉塞が疑われる症状がある場合、自己判断で様子を見るのではなく、入院・緊急対応が可能な医療機関を早めに受診してください。

正しい知識を持って、安全に餅を楽しんでください。

よくある質問

餅はどのくらいの量なら安全ですか?

目安としては、通常の大きさの切り餅(約50g)で3個程度までが望ましいです。

高齢の方や手術歴のある方は、1個程度に抑えることをおすすめします。

餅を食べた後、お腹の調子を整える方法はありますか?

以下のことを心がけましょう
・水分を多めに摂る
・食物繊維の多い野菜を一緒に食べる
・よく噛んでゆっくり食べる
・食べ過ぎない

普段から便秘気味の方は、お正月前に便通を整えておくことも大切です。

腸閉塞とは?

腸閉塞とは、腸の中で食べ物や便などが物理的に詰まり、内容物が先へ進まなくなる状態で、原則として高次医療機関での入院治療が必要となる疾患です。

安全に餅を食べる方法はありますか?

できるだけ温かい状態で食べるようにしましょう。 
冷めた餅は硬くなり、消化されにくくなります。お雑煮など、温かい汁物と一緒に食べるのがおすすめです。

子どもに餅を食べさせても大丈夫ですか?

小さな子どもは噛む力や飲み込む力が未発達なため、注意が必要です。特に5歳以下のお子さんには、餅を与える際は十分な注意が必要です。

小さく切って、必ず大人が見守りながら食べさせましょう。窒息や腸閉塞のリスクがあるため、慎重に判断してください。

腸閉塞はクリニックで治療できますか?

原則として、腸閉塞の治療はクリニックでは行わず、入院・救急対応が可能な高次医療機関での治療が必要です。

腸閉塞は、点滴治療や胃管・イレウス管による減圧、場合によっては緊急手術が必要になることがあり、診療所(クリニック)単独での対応は困難なケースがほとんどです。

そのため、腸閉塞が疑われる場合には、総合病院や救急病院などの高次医療機関の受診が推奨されます。

当クリニックでは、症状の初期評価を行ったうえで、必要に応じて速やかに適切な医療機関へご紹介しています。

お腹が痛いだけでも救急病院に行くべきですか?

軽い腹部不快感のみであれば経過観察が可能な場合もありますが、強い腹痛、繰り返す嘔吐、腹部の張り、便やガスが全く出ない状態がある場合は、腸閉塞の可能性があるため早めに救急対応可能な医療機関を受診してください。

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記事監修

院長 石岡 充彬

院長 石岡 充彬

日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

2011年秋田大学卒業。2018年より国内随一の内視鏡治療件数を誇るがん研有明病院の内視鏡診療部にて研鑽を積み、2021年同院健診センター・下部消化管内科兼任副医長。都内最大手内視鏡クリニックの院長職を経て、2024年、日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック開設。

詳しい経歴や実績については、こちらをご覧ください。

 

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