2025年4月27日
「黒い便が出たけれど、これって大丈夫?」と不安を感じたことはありませんか?なかでも「タール便」と呼ばれる黒くて粘り気のある便は、消化管からの出血を示す重要なサインです。
この症状が見られた場合には、重大な病気が隠れていることが少なくありません。本記事では、タール便の色や見た目の特徴、原因となる病気、受診の目安まで、消化器内視鏡専門クリニックの視点から詳しく解説いたします。

タール便とは?
タール便とは、黒く粘り気のある独特な便のことを指します。胃や十二指腸などの上部消化管で出血が起こり、その血液が腸内を通過する過程で酸化し、黒く変色したものが混ざり込むことにより、便がタール様になります。
タール便は、便器にこびりついたり、独特のにおいを伴うことも多く、鉄剤内服に伴う黒色便や単なる食品による便への着色とです。命に関わる病気が隠れていることもあるため、見た目の変化に気づいたら自己判断せず、早めの受診をおすすめします。
タール便が出る原因とは?
タール便の主な原因は、消化管からの出血です。特に胃や十二指腸、小腸の上部からの出血が関係しています。
出血した血液は腸内で消化・分解される過程で黒く変色し、粘り気のある独特な便となって排出されます。少量の出血であれば、まだ通常の便に近い色味が残ることもありますが、出血量が多い場合には、内部まで均一に黒く変色し、便全体がどろっと真っ黒になり、独特の臭いを伴うこともあります。「血のようなにおい」「鉄くさいにおい」「腐敗臭に似た重く鼻につくにおい」といったものです。鉄分や特定の薬剤の影響で便が黒くなることもありますが、タール便は見た目に明らかな異常があるため、区別がつくことが多いです。
上部消化管の出血は放置すると命に関わることもあるため、「黒い便が出た=一時的な体調不良」とは考えず、医療機関を受診することが重要です。
タール便から考えられる主な病気
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
タール便の原因として最も多いのが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍です。これらの病気は、ピロリ菌感染やストレス、消炎鎮痛剤などの薬物の影響によって胃や腸の粘膜が傷つき、出血を引き起こすことがあります。出血量が少ない場合は自覚症状がないこともありますが、便として出る際に黒く変化し、タール便として現れることがあります。腹痛やみぞおちの違和感、食事前後の痛みを伴うことも多いため、これらの症状に加えて黒い便が見られた場合は、消化器内科の受診をおすすめします。
胃がん・食道がん
胃がんや食道がんといった悪性腫瘍も、タール便の原因となることがあります。腫瘍が大きくなると、腫瘍の表面に潰瘍を形成したり、腫瘍表面の血管から慢性的な出血を引き起こします。初期は自覚症状が少なく、便の変化で初めて異常に気づくこともあります。とくに中高年の方で「急に黒い便が出た」「食欲がない」「体重が減った」といった症状がある場合には、早期発見が重要です。
「タール便」と「鉄剤などによる黒色便」の違い
タール便と鉄剤による黒色便は、いずれも見た目が黒いため混同されがちですが、原因も性質も異なります。
タール便は上部消化管からの出血が原因で、黒く光沢があり、ねっとりとした質感や特有の臭いが特徴です。
一方、鉄剤を服用すると便が黒くなることがありますが、これは鉄分が酸化して色が変わるためで、あくまで化学的な色の変化であり、異臭や粘り気はほとんど見られず、便の形状やにおいは通常の便に近いものになります。また、鉄剤による黒色便では体調不良を伴うことは少なく、体内の出血とは無関係です。
鉄剤を飲んでいないのに黒い便が出た場合は、ただちに消化器専門の医師に相談しましょう。
タール便が出たときの対処法
タール便が出た場合、基本的には「すぐに医療機関を受診」することが推奨されます。特に鉄剤や特定の食品を摂取していないのに黒い便が続く場合は、消化管出血が疑われます。腹痛、めまい、吐き気、顔面蒼白などの症状を伴う場合は、出血量が多い可能性があり、緊急性が高まります。
既に鉄剤を服用しており、体調に異変がない場合は、様子を見ても差し支えないこともありますが、心配であれば医師に相談をしてください。
タール便は放置することで重症化するリスクがあるため、「一度の黒い便」でも油断せず、早めの対処を心がけましょう。
受診すべき診療科と受診の目安
タール便が見られた場合、受診すべき診療科は「消化器内科」です。
タール便は、胃や十二指腸などの上部消化管からの出血が原因であることが多いため、消化器内科では、胃カメラ(上部内視鏡検査)などを用いて、出血の原因となる病変を直接確認する精密検査が行われることが一般的です。特に、黒い便が繰り返し出る・貧血症状がある・過去に消化管の病気を指摘されたことがある場合は、早急な受診が必要です。何も異常がなければ安心できますし、出血の原因が明らかになれば、その場で止血処置を行うことも可能です。「念のため」の受診でも構いません。少しでも不安を感じたら、受診をおすすめします。
まとめ
黒い便、特にタール便は、体からの重大なサインである可能性があります。
上部消化管の出血は、命に関わることもあるため、決して軽視してはいけません。鉄剤や食事の影響による一時的な黒色便であっても、自己判断で済ませるのは危険です。大切なのは「便の変化に気づいたときに、早めに専門医に相談すること」です。
当院では、苦痛の少ない内視鏡検査を通じて、原因の特定と早期治療を行っています。「念のため」であっても構いません。気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。早期発見・早期治療が、健康への第一歩です。