2025年6月20日
「盲腸がん」、あまり馴染みがないかもしれませんが、大腸がんの一種であり、放置すると重篤な症状を引き起こす可能性があります。初期には症状が乏しいため、発見が遅れることも少なくありません。
本記事では、盲腸がんの特徴や原因、症状、検査方法、治療法、そして予後について、消化器内視鏡の専門医が詳しく解説いたします。早期発見・早期治療の重要性を知るための一助になれば幸いです。

盲腸がんとは
盲腸がんは、大腸の始まりにあたる「盲腸」と呼ばれる部位に発生するがんで、大腸がんの中でも比較的まれなタイプに分類されます。
盲腸はお腹の右下あたり、ちょうどおへそと右の股の付け根の間くらいの位置にある消化管の一部です。小腸と大腸の接合部から袋状に連なった盲端部分です。一般の方がイメージする「盲腸」は、いわゆる「虫垂炎」のことを指しますが、虫垂は盲腸にぶら下がるようについている細長い突起のことで、医学的な盲腸とは異なります。
盲腸がんは進行するまで症状が現れにくいため、早期発見が難しいのが特徴です。そのため、進行がんとなって初めて症状が現れてから受診し、遅れて見つかることも少なくありません。反対に、虫垂炎と類似の症状で受診され、手術時に初めて盲腸がんであることがわかる場合などもあり、他の病気との鑑別が難しい場合もあります。
一般的には、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)やCT検査などで発見され、治療方針はがんの進行度に応じて決定されます。早期発見のためには、定期的な検査が重要です。
盲腸がんの原因
盲腸がんの原因は明確には解明されていませんが、大腸がん全般と共通するいくつかの生活習慣や体質、病歴が発症に関係していることが分かっています。
また、以下のような要因が、盲腸がんのリスクを高めると考えられています。
- 女性
- 加齢
盲腸がんは右側結腸がんの一部で、左側結腸がんに比べて女性の割合が高く,発症の平均年齢が高いとされています。盲腸がんに限らず、大腸がんは加齢とともに発症リスクは高まるため、40歳以上になったら定期的な大腸カメラ検査を受けることが推奨されます。 - 食生活の影響
脂肪分や赤身肉の多い食生活、食物繊維の摂取不足は、食事は大腸がんの発症リスクを高めるとされています。 - 家族歴
大腸がんや大腸ポリープの家族歴がある場合、遺伝的要因により盲腸がんを含む大腸がん全体のリスクが高まります。特に親や兄弟姉妹に大腸がんの既往がある場合は、早めの検査が勧められます。 - 炎症性腸疾患
潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性的な腸炎は発がんのリスクとなります。罹病期間が長いほど、また炎症のコントロールが悪いほどがん化のリスクは高くなるため、適切な治療を継続することが重要です。 - 大腸ポリープ
大腸がんの多くは、ほとんどの場合良性のポリープから発生します。特に、腺腫や鋸歯状病変と呼ばれるタイプのポリープは、放置するとがん化する可能性があります。 - 運動不足・肥満・喫煙・飲酒
これらの生活習慣の乱れも大腸がんのリスクを高める要因とされています。特に肥満や内臓脂肪の蓄積は、盲腸がんの発症にも関係すると考えられています。
盲腸がんのリスクは、加齢や遺伝的背景に加え、生活習慣の積み重ねによって高まるといえます。予防のためには、バランスの取れた食事・適度な運動・禁煙・節度ある飲酒、そして定期的な大腸内視鏡検査が重要です。
盲腸がんの特徴と主な症状
盲腸がんは「右側結腸がん」に含まれます。これは盲腸から上行結腸、横行結腸の一部までのがんを指し、左側(S状結腸〜直腸)と比べて性質が異なるとされています。右側の大腸(特に盲腸や上行結腸)は内容物が液状であるため、がんがある程度の大きさになるまで腸の通過が妨げられにくいという特徴があり、初期には症状が現れず、進行してから気づかれるケースが少なくありません。
また、右側に発生する大腸がんは、がん細胞の性質が異なり、「粘液がん」や「低分化腺がん」の割合が比較的高いことが知られています。これらのタイプは進行が速いこともあり、注意が必要です。
進行に伴って以下のような症状が現れることがあります。
- 腹部の違和感や鈍痛
右下腹部に重い感じや不快感を覚えることがあります。虫垂炎(いわゆる盲腸)の症状と間違われやすいこともあります。また腹水が溜まって、お腹が張るような症状が出る場合もあります。 - 便の異常
下痢や便秘を繰り返す、不規則な便通。がんが大きくなると腸の通りが悪くなり、便秘がちになることがあります。反対に、腸の動きが乱れて下痢や軟便が続くケースもあります。 - 血便・黒色便
がんからの出血により、血液が混じることがあります。ただし、出血が少量で目に見えないことも多く、検便で初めて分かる場合もあります(便潜血陽性)。 - 貧血・ふらつき
慢性的な出血が続くと、鉄欠乏性貧血を引き起こすことがあります。特に「顔色が悪い」「息切れしやすい」「立ちくらみがする」などが見られる場合は注意が必要です。 - 体重減少や食欲低下
全身症状として、がんによる消耗が見られることも。短期間で体重減少が起きた場合には、悪性の疾患が隠れている場合がありますので、精密検査が必要になります。
これらの症状が見られた場合は、早めの医療機関の受診が重要です。
盲腸がんの検査と診断方法

盲腸がんの診断には、複数の検査を組み合わせて行います。
盲腸がんは症状が出にくく、また進行がんの状態で見つかることもあるため、適切な検査を受けることが重要です。
主な検査・診断方法は以下の通りです。
- 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
カメラ付きの細いスコープを肛門から挿入し、大腸全体を直接観察する検査です。病変が見つかれば、同時に組織を採取(生検)して、がんの確定診断が可能です。 - CT検査
お腹の断面を撮影することで、がんの大きさや周囲への広がり、リンパ節や他臓器への転移の有無を確認します。 - 腫瘍マーカーの採血
CEAやCA19-9などの値を測定し、がんの可能性を推測します。
これらの検査結果を総合的に判断し、治療方針を決定します。早期に発見できれば、治療効果も高くなります。
盲腸がんの治療法
盲腸がんの治療は、がんの進行度や患者さんの全身状態を考慮して決定されます。
基本的な治療の中心は手術ですが、進行度によっては内視鏡治療で根治が可能な場合もありますし、薬物療法(抗がん剤治療)を併用することもあります。
主な治療法は以下の通りです。
- 外科手術
がんのある盲腸とその周囲の大腸、リンパ節を切除します(回盲部切除術)。転移がない、もしくは限られた範囲のリンパ節転移に止まる場合は、手術のみで根治が可能な場合もあります。 - 化学療法(抗がん剤治療)
転移再発リスクの高い進行がんの場合には、手術後に補助的な抗がん剤治療を行うことがあります。 - 内視鏡治療
内視鏡治療が選択されるのは、がんが粘膜内または粘膜下層浅層にとどまっており、リンパ節転移のリスクが極めて低いと判断された場合です。 - 緩和ケア
がんの進行により根治が難しい場合は、痛みや不快症状を和らげる治療を優先します。
盲腸がんのステージと生存率
盲腸がんの予後(病気の経過や見通し)は、がんの進行度や発見のタイミング、治療の有無によって大きく異なります。
盲腸がんの統計データはなく、大腸がんの統計データとなりますが、早期に発見・治療された場合の生存率は高くなります。
ステージ(病期)別の5年生存率の目安は以下の通りです。
ステージ | 5年生存率 |
ステージI (粘膜内または浅い層に限局) | 90%以上 |
ステージII (筋層まで浸潤、リンパ節転移なし) | 80%前後 |
ステージIII (リンパ節転移あり) | 60〜70% |
ステージIV (遠隔転移あり) | 10〜20% |
引用元:「がん情報サービス」国立研究開発法人国立がん研究センター
ただし、これはあくまで全体の統計に基づいた数値であり、実際の予後は患者さんの年齢、全身状態、治療反応によって変わってきます。
重要なのは、がんを「早く見つけて、早く治療する」ことです。定期的な大腸内視鏡検査によって、予後の改善が期待できます。
まとめ
盲腸がんは大腸がんの一種で、右下腹部にある盲腸に発生するがんです。発症頻度は低いものの、初期には症状が出にくく、発見が遅れることもあるため注意が必要です。
原因としては、食生活の乱れや家族歴、炎症性腸疾患などが挙げられます。主な症状には、腹部の違和感、便通異常、血便、貧血などがあり、症状が出てからの受診では進行していることもあります。
検査は大腸内視鏡が中心で、確定診断後には手術や抗がん剤治療が行われます。早期発見であれば高い治療効果が期待できます。
定期的な検診や、少しでも気になる症状がある場合の早めの受診が何より大切です。
よくある質問
Q.盲腸がんと虫垂炎(盲腸炎)は関係がありますか?
A.虫垂炎自体が盲腸がんの原因になることは稀ですが、高齢者で虫垂炎様の症状がある場合、盲腸がんが原因ということもあります。精密検査が重要です。
Q.若くても盲腸がんになりますか?
A.はい。大腸がんは中高年に多い病気ですが、盲腸がんは比較的若年層でも発症することがあります。家族歴や生活習慣に注意しましょう。
Q.健診で見逃されることはありますか?
A.大腸カメラなどの内視鏡検査を受けていない場合、血液検査や便潜血検査だけでは見逃される可能性があります。気になる症状がある場合は専門医に相談しましょう。
Q.盲腸がんにかかりやすい年齢層はどれくらいですか?
A.盲腸がんは、一般的に50歳以上で発症率が高くなります。ただし、若年層でも発症することがあり、特に遺伝的要因がある場合は注意が必要です。
Q.盲腸がんは家族歴に影響されますか?
A.はい。家族に大腸がんになった方がいる場合、発症リスクが高まるとされています。特に、親や兄弟姉妹が若くして大腸がんを発症している場合は、定期的な検査を受けることをおすすめします。