2025年9月19日
大腸がんにはいくつかのタイプがありますが、その中でも「陥凹型大腸がん」は発見が難しく、進行が早いことが特徴とされています。表面に盛り上がる一般的な隆起型と異なり、わずかなへこみや表面模様・色調の変化を示すのみで、熟練した医師でなければ内視鏡検査でも見逃されやすい病変です。そのため、早期に正しく診断し、治療につなげることが非常に重要です。
本記事では、陥凹型大腸がんの割合や特徴、症状、治療法についてわかりやすく解説します。

陥凹型大腸がんとは?
陥凹型大腸がんは、大腸の粘膜が盛り上がる「隆起型」とは異なり、粘膜の表面がわずかにへこんでいたり、模様や色がほかの粘膜と微妙に違って見えることが特徴です。へこんで発育するタイプの大腸がんです。小さい段階では粘膜の凹みが目立たず、平坦に見えることもあるため、非常に分かりにくく、発見が難しいとされています。内視鏡検査でも注意深く観察しなければ見逃されることがあります。
このタイプは進行が早く、特に通常の内視鏡観察だけでは見逃されやすく、専門的な診断技術や色素散布、拡大内視鏡を用いた精密検査により、早期に発見し適切な治療介入することが重要です。
また、陥凹型大腸がんは進行が早く、早期からリンパ節転移を伴いやすい点が大きな特徴です。そのため、発見された段階ですでに進行しているケースも少なくありません。
定期的な大腸内視鏡検査を受けることで、陥凹型を含む早期大腸がんを発見できる可能性が高まります。特に家族歴や既往歴などでリスクが高い方は、積極的に検査を検討することが大切です。
陥凹型大腸がんの特徴
陥凹型大腸がんは、一般的なポリープのように盛り上がる形ではなく、粘膜がわずかにへこんだり、表面の色や模様がほかと違って見えることです。そのため、盛り上がるタイプのがんに比べて、内視鏡検査で見つけにくく見逃されるリスクがあります。
主な特徴は以下の通りです。
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表面が平坦または浅く凹んでいる
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周囲の粘膜との境界が不明瞭なことがある
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小さい段階でも粘膜下に深く広がりやすい
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進行が早く、転移を起こしやすい
陥凹型大腸がんは早期から粘膜下に浸潤する傾向が強く、他のタイプに比べて悪性度が高いと考えられています。また、内視鏡で観察しても表面が正常の粘膜に近く見えることがあるため、色素内視鏡や画像強調内視鏡、拡大内視鏡といった精密検査が必要になります。
陥凹型大腸がんの症状
陥凹型大腸がんは、初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。そのため、症状が現れた時にはすでに進行しているケースも少なくなく、注意が必要です。
代表的な症状としては以下のものが挙げられます。
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便に血が混じる(血便)や黒っぽい便
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便秘や下痢などの便通異常
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腹痛や下腹部の違和感
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貧血によるだるさ、息切れ
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体重減少や食欲低下
これらの症状は、痔や胃腸炎など他の病気でも見られるため、自己判断で様子をみてしまう方も多いのが実情です。しかし、陥凹型大腸がんは進行が早いため、「いつもと違う便通の変化」や「血便」が続く場合は早めに医療機関を受診することが重要です。
陥凹型大腸がんの原因
陥凹型大腸がんの原因は一つに特定されているわけではなく、複数の要因が関与すると考えられています。一般的な大腸がんと同様に、遺伝的要因と生活習慣の両方が大きく影響します。
主な要因としては以下が挙げられます。
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遺伝的要因
家族に大腸がんの既往がある場合、発症リスクが高まる -
食生活
高脂肪・高カロリーの食事や、野菜・食物繊維の不足 -
生活習慣
運動不足、肥満、過度の飲酒や喫煙
陥凹型大腸がんは特に悪性度が高く進行が早いとされるため、生活習慣の見直しと定期的な大腸内視鏡検査が重要です。食生活の改善や禁煙・節酒、適度な運動は大腸がん全般の予防につながります。自覚症状がなくても、家族歴がある方や40歳以上の方は積極的に大腸内視鏡検査を受けることが推奨されます。
また、発症機序は異なりますが、炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)による慢性炎症に伴って発症するcolitic cancerも同様に初期の段階ではほぼ平坦なdysplasiaとして発症し、早期発見は容易ではありません。
陥凹型大腸がんの治療法
陥凹型大腸がんの治療は、がんの進行度や広がりの程度によって方法が異なります。発見が早ければ内視鏡的治療で完治を目指すことも可能ですが、進行している場合は外科手術や薬物療法が必要になります。
早期発見時(病変が粘膜内にとどまる場合)
内視鏡的切除
早期の陥凹型大腸がんは、内視鏡を使って体の外に傷をつけずに切り取ることができます。内視鏡的切除は、痛みが少なく、日帰りや数日間の短い入院で終わることが多いので、体の負担が軽い治療方法です。病変の大きさによりポリペクトミー、またはEMR/ESDといった手技が選択されます。
進行している時
外科手術
がんが深く広がっていたり、リンパ節に転移している場合は、手術でがんと周囲のリンパ節を切除します。最近はロボット手術や腹腔鏡手術(お腹に1〜数ヵ所小さな穴を開けてカメラや器具を挿入し行う手術)が多く、体への負担が少なく回復が早い特徴があります。
抗がん剤(化学療法)
手術の前後に補助的療法として用いられる場合や、手術後に全身に広がった目に見えないがん細胞を叩いて再発を予防する目的に行われます。また切除不能ながんに対し病状の進行を少しでも遅らせる目的で使用される場合もあります
放射線治療
特に直腸がんで化学療法とあわせて行使われることが多く、術前に腫瘍の縮小を試み、術後の再発を抑えたり、人工肛門を回避できる可能性が高くなります。
一部の施設では、がんが目に見えないレベルまで縮小した場合に、厳重な経過観察を条件に手術そのものを回避できる可能性を模索する治療法も導入されています。
陥凹型大腸がんの予後と再発リスク
陥凹型大腸がんは、一般的な隆起型に比べて進行が早く、早期から粘膜下に浸潤する傾向が強いため、発見が遅れると予後が不良となりやすいのが特徴です。早期に発見して治療できれば良好な経過が期待できますが、進行してから見つかるとリンパ節転移や遠隔転移のリスクが高まり、治療後の再発率も上がります。
再発リスクを下げるためには、以下の点が重要です。
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定期的な大腸内視鏡検査
術後の経過観察で再発や新たながんを早期に発見できる -
生活習慣の改善
食生活の見直し、禁煙・節酒、適度な運動 -
主治医との継続的なフォロー
症状の変化を早期に伝え、必要に応じて追加検査を行う
陥凹型大腸がんは再発しやすいタイプとも言われるため、治療後も安心せず、計画的な経過観察を続けることが重要です。医師の指示に従いながら定期的な検査を受けることで予後改善につながります。
早期発見のためにできること
陥凹型大腸がんは初期症状が乏しく、内視鏡でも見逃されやすいことから、早期発見には意識的な取り組みが欠かせません。自覚症状が出てからでは進行している可能性が高いため、予防的な検査が最も重要です。
早期発見のためにできることは以下の通りです。
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定期的な大腸内視鏡検査
40歳を過ぎたら一度検査を受け、その後はリスクに応じて定期的に行う -
便潜血検査の活用
毎年の健診で便潜血検査を受け、陽性であれば必ず内視鏡につなげる(但し隆起型の病変より偽陰性が多いため、結果が陰性であっても定期的な内視鏡検査を組み合わせて行うことが推奨されます) -
生活習慣の見直し
野菜や食物繊維を多く摂る、禁煙・節酒、運動習慣を持つ -
家族歴の確認
家族に大腸がんの既往がある場合は特に早めの検査を検討
さらに、検査を受ける際には「内視鏡医の選び方」も重要です。陥凹型は見逃されやすいため、経験豊富で様々な技術を積極的に用いている医師に検査してもらいましょう。当院では全例で画像強調内視鏡や色素散布といった特殊な観察法を組み合わせ、微細な凹みや色調の変化も見逃さないよう努めています。このように、患者自身の意識と医師の技術の両輪があってはじめて、陥凹型大腸がんの早期発見につながります。
まとめ
陥凹型大腸がんは、一般的な隆起型と異なり粘膜がへこんで広がるため、早期発見が難しく進行が早いのが特徴です。初期には自覚症状がほとんどなく、血便や便通異常といった症状が出るころには進行している場合もあります。
発症には食生活や生活習慣、遺伝的要因などが関与しており、治療は内視鏡的切除から外科手術、抗がん剤治療まで進行度に応じて選択されます。再発のリスクもあるため、治療後も定期的な経過観察が欠かせません。
早期に見つけるためには、定期的な大腸内視鏡検査、生活習慣の改善、観察技術に優れた内視鏡医選びが重要です。当院では最新の内視鏡機器を用い、見逃しやすい陥凹型病変にも対応しています。少しでも不安がある方は、早めにご相談ください。
よくある質問
家族に大腸がんの既往がある方、40歳以上の方、食生活や生活習慣に偏りがある方はリスクが高いとされています。
通常の内視鏡では見逃されやすいですが、色素内視鏡や画像強調内視鏡、拡大内視鏡を併用することで発見率が高まります。
便潜血検査で陽性となることもありますが、陰性でも存在する場合があります。隆起型の病変よりも便が擦れづらく、偽陰性(実際は病変があるにも関わらず結果が陰性となること)も多くなる傾向にあります。確定には大腸内視鏡検査が必要です。
進行が早く悪性度が高いため、再発リスクが他のタイプより高いとされています。治療後の定期検査が重要です。
食生活の改善、禁煙・節酒、適度な運動、そして定期的な大腸内視鏡検査が最も効果的な予防策です。