2025年7月12日
カンピロバクターは、食中毒の原因としてよく知られる細菌のひとつです。鶏肉や水を介して感染することが多く、腹痛や下痢、発熱などの症状を引き起こします。「人から人にうつる?」「どこで感染した?」といった疑問を抱く方も多いはずです。
本記事では、感染経路や予防法、症状の特徴まで医師がわかりやすく解説します。

カンピロバクターとは?潜伏期間は?
カンピロバクターは、グラム陰性桿菌という種類の細菌で、27種が存在するとされています。
中でもカンピロバクター腸炎の原因の約95%は「Campylobactor jejuni(カンピロバクター・ジェジュニ)」という菌が占めています。少量の菌でも発症するほど感染力が強く、厚生労働省が公表している食中毒のデータでも発生事件数が毎年最も多くの報告がなされています。
主な特徴は以下の通りです。
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鶏刺しや鶏レバー、加熱不十分の鶏肉による感染が多い
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調理器具を介しての二次感染でも広がる
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腸管内で増殖し、腹痛・下痢・発熱などを引き起こす
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潜伏期間は通常1~3日程度だが、〜10日と長いこともある
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症状が6週間以上と長期に持続する場合もある
重症化するケースは稀ですが、乳幼児や高齢者、免疫力の低下した方では注意が必要です。
カンピロバクターは人から人にうつる?
カンピロバクターは基本的に「人から人へ」直接は感染しにくいとされています。
主な感染源は加熱不十分な鶏肉やそれらの食材を扱ったまな板や包丁をそのまま他の食材の調理に使用するなど外部環境からの経路です。
しかし、以下のような状況では、人を介した感染のリスクもゼロではありません。
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感染者の下痢や嘔吐物を介した接触感染
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トイレやドアノブなどの共有部分を介した接触感染
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おむつ交換後などに手洗いを怠った場合
特に感染力の高い「糞口(ふんこう)感染」と呼ばれる経路には注意が必要です。たとえば、家庭内で乳幼児や高齢者の介護をしている場合には、感染者の便に触れた手で口や食品に触れることでうつる可能性があります。
カンピロバクターは乾燥に弱いため、基本的に飛沫感染や空気感染はしませんが、排泄物を介した接触感染・経口感染は起こりうるため、十分な衛生管理が重要です。
主な感染経路
カンピロバクターの主な感染経路は、以下のように「食品」や「動物」との接触によるものです。
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加熱不十分な鶏肉やレバーの摂取
特に鶏肉はカンピロバクターの保菌率が高く、生焼けの状態で食べると感染リスクが非常に高くなります。
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まな板や包丁など調理器具の二次汚染
生肉に触れた調理器具を介して、サラダなどの非加熱食品に菌が移ることがあります。
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井戸水や簡易水道などの未処理水の摂取
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ペットや家畜との接触
犬や猫、鶏などの動物がカンピロバクターを保菌していることがあります。特に排泄物の処理時は注意が必要です。
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外食やバーベキューなどの不適切な食品管理
これらの経路を理解し、食品の取り扱いや衛生管理を徹底することで、カンピロバクター感染の多くは防ぐことができます。
感染を防ぐために気をつけること
カンピロバクターの感染は、日常生活でのちょっとした注意で予防が可能です。基本的な衛生習慣を守ることで、家庭内での感染リスクを大きく減らすことができます。
家庭内でできる主な予防策は以下の通りです。
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鶏肉は中心部までしっかり加熱
75℃で1分以上の加熱が目安です。特に生焼けの鶏肉は避けましょう。
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調理器具の使い分け
生肉用と野菜・調理済食品用のまな板・包丁を分けることで二次汚染を防ぎます。
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調理器具や手をこまめに洗う
生肉を扱った後はすぐに石けんと流水で丁寧に手を洗いましょう。
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保存方法にも注意
肉は冷蔵・冷凍保存を徹底し、調理直前まで低温で保管することが重要です。
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ペットや動物の排泄物の処理後も手洗いを徹底
感染中にうつさないために気をつけること
カンピロバクターに感染している間は、周囲への二次感染を防ぐことが大切です。症状が治まっても、便中に菌がしばらく残ることがあります。症状改善後も1週間程度は注意しましょう。
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トイレ後や排泄物処理後はしっかり手洗い
石けんと流水で30秒以上の手洗いを行い、使い捨てペーパーで手を拭くとより効果的です。
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タオルや食器の共用を避ける
感染者専用のタオルや食器を使用し、使用後は熱湯や洗剤でしっかり洗浄しましょう。
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調理は可能な限り控える
感染中は他人の食事を調理することは避けるようにします。
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おむつ交換や介護時は使い捨て手袋を使用
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小さな子どもや高齢者への接触には十分注意
こんな症状が出たら要注意
カンピロバクターに感染すると、感染後1〜10日(平均1〜3日)の潜伏期間を経て、次のような症状が現れます。以下の症状がある場合は、早めの受診を検討しましょう。
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発熱(38℃前後)
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強い腹痛や下腹部の違和感
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水のような下痢が1日数回〜10回以上
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吐き気・嘔吐
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全身のだるさや食欲不振
特に注意が必要なのは、以下のような場合です。
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下痢が3日以上続く
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血便が見られる
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高熱や意識障害がある
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脱水症状(口の渇き・尿が少ない・ふらつき)
症状が重い場合や、乳幼児・高齢者・基礎疾患のある方は重症化する可能性があるため、早めに消化器内科や小児科などの医療機関を受診してください。
また、感染してから数週間後に遅れて、手足や顔の麻痺症状や呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を発症することが稀にあるため、注意が必要です。
まとめ
カンピロバクターは、鶏肉や水などを介して感染する代表的な食中毒菌です。少量でも発症することがあり、腹痛・下痢・発熱などの症状を引き起こします。基本的には人から人へはうつりにくい菌ですが、排泄物や汚染された手指を介して接触感染することがあります。
家庭内での予防には、十分な加熱、調理器具の衛生管理、そして手洗いの徹底が重要です。感染中も二次感染を防ぐための配慮が必要です。
症状が軽度であっても、下痢や高熱が長引く場合は医療機関を受診しましょう。特に乳幼児や高齢者では重症化することもあるため、早めの対応が大切です。
カンピロバクター感染を正しく理解し、予防策を習慣化することで、安全な食生活を守ることができます。
よくある質問
はい。まな板や包丁などの調理器具からサラダなどに菌が移る「二次感染」や、井戸水・動物との接触でも感染することがあります。
はい。症状が治まっても、1週間ほどは便中に菌が残ることがあります。手洗いなどの衛生管理は継続してください。
多くの場合、数日で自然に回復します。症状が重い場合や脱水が疑われる場合は、抗菌薬や点滴が必要になることもあります。
脱水を防ぐため、こまめな水分補給が大切です。高熱や元気がない場合は、早めに小児科を受診しましょう。
法的な規制はありませんので、各々の学校や職場の規定に従ってください。ただし、下痢や発熱症状がある場合は無理せずにお休みするのが良いでしょう。