ピロリ菌は除菌しない方がいいって本当?

ピロリ菌は除菌しない方がいいって本当?

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2025年6月03日

「ピロリ菌は除菌しない方がいい」という意見を耳にしたことはありませんか?
実際、ネット上で除菌を迷う声や、副作用への不安の声を目にすることがあります。しかし、ピロリ菌は胃がんの原因とされる細菌であり、適切な対応が重要です。
この記事では、ピロリ菌を除菌すべき理由や、除菌しないことのリスク、メリット・デメリットについてわかりやすく解説します。

ピロリ菌は除菌しない方がいいって本当?

はじめに|ピロリ菌とは?

ピロリ菌(正式名称:ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の中に生息する細菌で、強い酸性環境にも耐えられる特徴を持っています。多くは幼少期に感染し、大人になるまで気づかずに過ごすケースも少なくありません。
感染が続くと、胃の粘膜が徐々に傷つき、慢性胃炎、胃潰瘍、さらには胃がんのリスクが高まるとされています。

以下のような胃の不調が続く場合、ピロリ菌感染の可能性が考えられます。

  • 胃もたれや胃痛が慢性的にある
  • 食後にすぐ満腹感を感じる
  • 胃の不快感やムカムカが続く

ピロリ菌は内視鏡検査や血液検査・呼気検査などで診断可能で、陽性であれば除菌治療を行うことが一般的です。

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除菌しない方がいいと考える人が増えている背景

近年、「ピロリ菌は除菌しない方がいいのでは?」と考える人が増えている背景には、主に次のような理由があります。

逆流性食道炎の症状の悪化に対する不安

実際、一部の患者さんで除菌後に胃酸の逆流症状が強くなることがあります。
ピロリ菌に長く感染していると、胃の粘膜がダメージを受けて胃酸の分泌が低下しているため、除菌によって炎症が収まり、胃の機能が回復すると、胃酸の分泌も正常化します。この変化が一部の人では「胃酸が増えすぎた」ように感じられ、逆流症状を感じる場合があります。ただし、除菌後に逆流性食道炎が起きたとしても、その多くは一時的であり、治療可能です。
一方で、ピロリ菌による胃のダメージは、除菌以外では治療できず、感染期間が長いほど胃がんのリスクも増加するため、逆流症状をもって除菌をためらうのはお勧めできません。

ネット上の情報が氾濫している

医療機関ではなく、個人の体験談や不確かな情報が多く発信され、「除菌して調子が悪くなった」という声が一人歩きしている場合があります。

副作用や耐性菌への不安

抗菌薬による副作用や、薬剤耐性菌の問題を気にする方もいるようです。実際に除菌治療では、複数の抗菌薬を1週間服用する必要があり、治療中に副作用(下痢、吐き気、アレルギー症状など)が出現する場合があります。多くの副作用は一時的なもので、医師の指導に従い治療することで安全に治療を終えることができる場合がほとんどです。耐性菌の問題についても、日本では複数の治療レジメンが確立されており、一次除菌で失敗しても二次、三次と段階的な対処法があります。
また、ピロリ菌は除菌以外で「自然に治る」ということはほとんどありません。放置することで胃粘膜の炎症が進み、将来的な胃がんのリスクが高まるため、正しい情報に基づいた判断が重要です。

症状がないから治療の必要性を感じない

自覚症状が乏しいため、「放置しても問題ないのでは」と判断してしまうケースも少なくありません。症状がないことは必ずしも「健康」であることを意味せず、ピロリ菌感染は自覚がないまま静かに胃の粘膜を蝕んでいきます。

予防医療への関心

「病気になってから治療すればよい」と考える傾向のある方は、予防的な除菌に対して積極的になれないことがあります。日本は胃がん罹患率が高い国である一方で、予防の手段が確立している数少ないがんでもあります。除菌は胃がんリスクを下げるための大きな一歩です。

このように、さまざまな情報や価値観が影響し、除菌に消極的な人が一定数存在しているのが現状ですが、正しい医学知識を身につけ、適切に対処することが重要です。

ピロリ菌を除菌しないことで考えられるリスク

ピロリ菌を除菌しないまま放置すると、将来的に以下のような健康リスクが高まります。

  • 胃がんの発症リスクが上昇する
    ピロリ菌が長期間胃に留まることで、慢性胃炎が進行し、胃粘膜が萎縮・変性することで胃がんに発展するリスクがあります。ピロリ菌を除菌することで、胃炎の進行は止まり、胃がん発生の危険性は、除菌前の状態の約3分の1程度まで下がります。しかし、除菌するまでに荒れてしまった粘膜は完全には元に戻らないため、早い段階での除菌が望まれます。
  • 胃・十二指腸潰瘍の再発や悪化
    ピロリ菌は胃酸による粘膜ダメージを助長し、潰瘍の発症・再発に深く関与しています。除菌しなければ再発を繰り返すことも多く、潰瘍による出血や穿孔(穴が空く状態)など重篤な合併症を引き起こすリスクもあります。
  • 萎縮性胃炎・腸上皮化生の進行
    これは胃がんの「前段階」とも言える状態で、本来存在しない腸の細胞に置き換わっていく状態です。この状態が進行すると、胃がんのリスクがさらに高まるため、除菌により進行を抑えることが極めて重要です。
  • 胃の不調が慢性化する可能性
    ピロリ菌に関連した慢性胃炎は、胃もたれ、食欲不振、腹部膨満感といった慢性的な胃の不調を引き起こすことがあります。除菌によって胃の粘膜が回復し、症状が改善するケースも多く見られます。

これらのリスクを考えると、「今症状がないから大丈夫」と安心するのではなく、長期的な健康維持のために除菌を前向きに検討することが望ましいといえます。

ピロリ菌は除菌した方がいい!

ピロリ菌を除菌する最大の理由は、胃がんのリスクを大幅に減らせることです。ピロリ菌感染は「胃がんの発生に関与する最大の要因」として知られており、除菌によってそのリスクを約3分の1〜2分の1に下げられるという研究結果もあります。

また、除菌には以下のようなメリットもあります。

  • 胃・十二指腸潰瘍の再発を防ぐ
    潰瘍の約8割はピロリ菌が原因。除菌により再発予防が可能です。
  • 慢性的な胃炎の進行を抑える
    萎縮性胃炎の進行や、腸上皮化生といった前がん病変の予防にもつながります。
  • 胃の調子が改善することがある
    除菌後に食欲が改善した、胃の不快感が減ったという方もいます。

除菌は、抗菌薬と胃酸抑制薬の内服による1週間の治療で、比較的簡単に行えます。感染が判明した時点で、医師と相談の上、早めに除菌を検討することが勧められます。

除菌治療の副作用と注意点

ピロリ菌の除菌治療は、一般的に1週間の内服治療で完了しますが、治療中や治療後にいくつかの副作用が出る可能性があります。

可能性がある副作用

  • 下痢や軟便
    抗菌薬により腸内細菌のバランスが変化し、一時的に下痢になることがあります。
  • 腹痛・吐き気
    胃腸が敏感な方では、消化器症状が出ることがあります。
  • 味覚異常
    抗菌薬の影響で、食べ物の味が変わったように感じる方もいます。
  • アレルギー反応
    薬剤に対する発疹やかゆみなどが出ることもあります。ごくまれですが、重症薬疹や呼吸困難などを伴う重篤なアレルギー症状が出る場合もありますので、異常を感じた場合には速やかに医療機関に連絡し指示を仰ぐことが重要です。

注意点

  • 薬は決められた期間しっかりと飲み切ることが大切です。
  • 治療後は再検査(呼気テストなど)を行い、除菌が成功したか確認する必要があります。

他の薬との飲み合わせに注意が必要なこともあるため、服用中の薬がある場合は医師に相談してください。
副作用が心配な場合も、医師と相談しながら適切に対処することで、安全に治療を受けることが可能です。

除菌すべきか迷ったらどうする?

ピロリ菌を除菌すべきかどうか迷っている場合、まずは専門医の診断を受けることが最も大切です。

除菌を検討する際の判断材料として、以下のポイントが挙げられます。

  • 胃がんの家族歴があるか
    胃がんそのものは遺伝性はありませんが、ピロリ菌感染が最大の胃がんのリスク因子ですので、ご家族に胃がんを患った方がいる場合、予防の観点から除菌が強く勧められます。
  • 現在の胃の状態(慢性胃炎、潰瘍の有無)
    胃の粘膜に炎症や潰瘍がある場合は、除菌することで再発や悪化のリスクを軽減できます。
  • 年齢や健康状態
    高齢者や基礎疾患のある方は、副作用のリスクも考慮しながら判断する必要があります。
  • 本人の希望・生活スタイル
    重度のアレルギー体質がある場合など副作用が心配な場合や、喫煙習慣、通院の手間をどの程度許容できるかも重要な要素です。

まとめ

ピロリ菌は、胃がんや胃潰瘍などの原因となることが知られており、感染が確認された場合は除菌治療が推奨されます。

「除菌しない方がいい」といった意見がある一方で、医学的な根拠に基づけば、長期的な健康を守るためには除菌した方がはるかにメリットが大きいといえます。 ピロリ菌の有無は検査で簡単に調べられます。もし不安がある場合は、まずは消化器内科を受診し、状態を把握することから始めてみましょう。

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記事監修

院長 石岡 充彬

院長 石岡 充彬

日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

2011年秋田大学卒業。2018年より国内随一の内視鏡治療件数を誇るがん研有明病院の内視鏡診療部にて研鑽を積み、2021年同院健診センター・下部消化管内科兼任副医長。都内最大手内視鏡クリニックの院長職を経て、2024年、日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック開設。

詳しい経歴や実績については、こちらをご覧ください。

 

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