胃潰瘍の薬について|治療薬の種類・市販薬との違いなど医師が解説

胃潰瘍の薬について

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2025年7月22日

胃潰瘍は、胃の粘膜がただれ、みぞおちの痛みや吐き気などの不快な症状を引き起こす病気です。進行すると出血や貧血の原因になることもあり、早めの対処が重要です。薬による治療は効果的で、適切な内服を続けることで多くのケースで治癒が期待できます。
本記事では、胃潰瘍の薬について、種類や市販薬との違い、副作用の注意点などを医師の視点からわかりやすく解説します。

胃潰瘍の薬について|治療薬の種類・市販薬との違いなど医師が解説

胃潰瘍とは?薬で治る?

胃潰瘍とは、胃酸や消化酵素の影響で胃の粘膜が深く傷つき、潰瘍(ただれ)ができる病気です。

主な原因はピロリ菌感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)ですが、ピロリ陰性・NSAIDs非使用の「特発性潰瘍」も存在し、ストレスや生活習慣病の関与も指摘されています。
症状としては、いずれの原因の場合でも同様で、みぞおちの痛み、食後の不快感、吐き気、食欲不振、出血などが挙げられます。

治療の基本は薬物療法で、潰瘍の原因に応じて胃酸の分泌を抑える薬や、粘膜を保護する薬、ピロリ菌を除菌する薬が中心になります。多くの場合、内服開始後より症状が緩和し、1〜2ヶ月の継続内服により潰瘍は治癒します。ただし、再発を防ぐためには原因の特定と再発予防策が重要です。放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。

胃潰瘍の治療に使われる主な薬の種類

胃潰瘍の治療では、以下のような薬が組み合わされて使われます。潰瘍の原因や重症度に応じて適切な薬が処方されます。適切な薬を組み合わせて使用することで、治療効果を高め、再発リスクを下げることが可能です。

胃酸を抑える薬(PCAB、PPI、H2ブロッカーなど)

胃酸の分泌を抑えることで、潰瘍の悪化を防ぎ、治癒を促進します。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)

    従来から使われており、胃潰瘍治療の基本薬です。オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾールなど。

  • カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(PCAB)

    ボノプラザンなど。PPIより強力な酸分泌抑制効果を持ち、近年ではPPIと同様に胃潰瘍治療の第一選択薬として使用されます。

  • H2ブロッカー

    ファモチジンなど。PPIより効果はやや弱いですが、軽症例や長期使用が必要な場合に使用されることがあります。

粘膜を保護する薬

胃粘膜を覆い、胃酸や消化酵素から保護する作用があります。

  • スクラルファート

    潰瘍部位に直接付着し、防御バリアを形成します。

  • レバミピド

    胃粘液の分泌を促進し、粘膜の修復を助けます。

ピロリ菌除菌薬

ピロリ菌感染がある場合は、再発予防のために除菌治療を行います。

  • 抗生物質2種+PPIの3剤を1週間服用する「3剤併用療法」が基本です。

胃潰瘍の薬の副作用と注意点

胃潰瘍の治療薬は効果が高い反面、副作用が出ることもあります。薬の種類によって注意すべき点が異なります。主な副作用と注意点は下記のとおりです。

PPI(プロトンポンプ阻害薬)

ランソプラゾールの投薬と関連する報告が多いですが、PPIの投薬に関連して慢性下痢の発症が報告されています。また、薬剤相互作用も知られており、他の疾患での常用薬がある場合は飲み合わせの確認が必要です。
潰瘍が治癒するまでの間の〜2ヶ月程度の限られた期間での使用は問題ありませんが、長期的に服用を続ける場合には、骨粗鬆症やビタミンB12欠乏、鉄欠乏などの栄養吸収障害が現れる場合などもあり、漫然とした投与は避ける必要があります。

ピロリ菌除菌薬

抗生物質2種及びサン分泌抑制薬の3剤併用療法が標準です。最も多い副作用は下痢・軟便で、その他、味覚異常や腹部膨満感・吐き気、肝機能異常などが見られることがあります。まれだが重篤な副作用としては、SJS(スティーブンス・ジョンソン症候群)/TEN(中毒性表皮壊死症)と呼ばれる薬剤性皮膚粘膜反応が現れる場合があり、発熱・全身倦怠・紅斑・水疱・びらんが口腔・眼・陰部などの粘膜に発症するなどし、致死的となる場合があります。

いずれの薬も、気になる症状が出た場合は、医師に相談して適切な対処を受けましょう。

市販薬で胃潰瘍は治せる?病院の薬との違い

市販されている胃薬の多くは、胃酸を中和したり粘膜を保護したりする成分を含んでおり、一時的な症状緩和には効果があります。しかし、胃潰瘍そのものを治す力は限られており、根本治療には医療機関で原因に応じた薬(PPI、PCAB、除菌療法など)の処方が必要です。

処方薬と市販薬の主な違い

  • 効果の強さ

    病院で処方されるPCAB/PPIは、市販薬よりも強力な作用があります。

  • 原因へのアプローチ

    病院では検査によりピロリ菌感染やNSAIDsの使用歴などを確認し、それに合わせた治療が行えます。

  • 再発予防

    適切な治療を受けることで、再発のリスクを大幅に減らせます。ピロリ菌除菌は潰瘍の再発を抑制する上で最も効果的ですが、市販薬には除菌効果が期待できる薬剤はありません。

薬だけで治らないケースは?

通常、胃潰瘍は薬物療法で改善しますが、たとえば、ピロリ菌の除菌がうまくいかなかった場合は、抗菌薬の変更や再治療が必要になります。また、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)をやめられない方では、胃粘膜への負担が続くため、PPI(プロトンポンプ阻害薬)などを併用して粘膜保護を図るか、薬剤自体の見直しが検討されます。

さらに、潰瘍が重度で出血や穿孔を起こしている場合や、がんとの鑑別が必要な場合には、内視鏡的処置や外科的な治療が必要となることがあります。そして、ピロリ菌もNSAIDsも関与しない「特発性潰瘍」では、治療に抵抗性を示すことがあり、再発もしやすいため、長期間の薬物療法や慎重な経過観察が求められます。

このように、原因や重症度によっては薬だけでの対応が難しいケースもあるため、治療の経過に応じた柔軟な対応が重要です。

こんなときは医療機関を受診しましょう

市販薬で症状が軽くなる場合もありますが、以下のようなケースでは早めに医療機関を受診しましょう。

  • みぞおちの痛みが続く・繰り返す

    慢性的な胃痛は胃潰瘍の可能性があるため、内視鏡検査での診断が必要です。

  • 吐き気や食欲不振が強い

    胃の機能低下や進行した潰瘍が関係している場合があります。

  • 黒色便や吐血がある

    胃潰瘍による出血が疑われる重症例で、緊急受診が必要です。

  • 市販薬を使っても改善しない

    根本原因にアプローチしなければ、症状が再発・悪化する恐れがあります。

  • ピロリ菌感染が疑われる

    除菌治療により再発リスクを大きく減らせるため、検査と治療を受けましょう。

まとめ

胃潰瘍は、適切な薬物治療を行えば多くのケースで改善が見込める病気です。

主な治療薬には、胃酸を抑えるPCAB/PPIやH2ブロッカー、粘膜保護薬、ピロリ菌除菌薬などがあり、それぞれの症状や原因に応じて組み合わせて使用されます。

市販薬では一時的な症状緩和は期待できますが、根本治療には至らないことが多いため、症状が続く場合は医療機関での診断が重要です。また、副作用や治りにくいケースもあるため、医師の指導のもとで治療を継続することが大切です。

胃の痛みや不快感があるときは我慢せず、早めに専門医を受診しましょう。

よくある質問

胃潰瘍の薬はどれくらい飲み続ければよいですか?

通常、PCAB/PPIなどの胃酸抑制薬は4〜8週間ほどの継続内服で潰瘍の治癒が期待できます。ただし、潰瘍の状態や原因によってはさらに長期間の服用が必要な場合もあります。潰瘍の傷が深い場合には、内服終了前に再度胃カメラ検査を施行し治癒を確認することも有効です。医師の指示に従い、自己判断で中止しないことが大切です。

ピロリ菌が陰性なら胃潰瘍にはならないのですか?

ピロリ菌は主要な原因の一つですが、NSAIDsの使用や強いストレスでも胃潰瘍は発症します。陰性であっても注意が必要です。

食事や生活習慣で気をつけることはありますか?

刺激物(辛い物、アルコール、喫煙)を控えることが基本です。また、規則正しい食生活と十分な睡眠、ストレス管理も重要です。

胃潰瘍は再発しやすいですか?

原因によっては再発することがあります。特にピロリ菌が除菌されていない場合や、NSAIDsの継続使用が必要な場合は注意が必要です。再発予防のためにも医師の指導に従いましょう。

胃潰瘍は自然に治ることもありますか?

軽度であれば一時的に症状が軽快することもありますが、放置すると悪化や出血のリスクがあるため危険です。自己判断せず医療機関を受診してください。

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記事監修

院長 石岡 充彬

院長 石岡 充彬

日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

2011年秋田大学卒業。2018年より国内随一の内視鏡治療件数を誇るがん研有明病院の内視鏡診療部にて研鑽を積み、2021年同院健診センター・下部消化管内科兼任副医長。都内最大手内視鏡クリニックの院長職を経て、2024年、日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック開設。

詳しい経歴や実績については、こちらをご覧ください。

 

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