2025年8月19日
「切れ痔にはワセリンが良い‥」そんな話を聞いたことはありませんか?肛門の痛みや出血に悩む多くの方が、身近なワセリンで少しでも症状を和らげたいと考えるのは自然なことです。
この記事では、医師の視点から切れ痔の正体や原因、ワセリンの効果と注意点、受診すべきタイミングまでをわかりやすく解説します。

切れ痔とは?症状と原因を簡単に解説
切れ痔(裂肛)とは、肛門の出口付近の皮膚や粘膜が裂けて傷ができた状態のことを指します。排便時に肛門が強く引き伸ばされることで、皮膚や粘膜が物理的に傷つき発症します。
以下のような症状がよく見られます。
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排便時にピリッとした痛みを感じる
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排便後に少量の鮮血が出る(トイレットペーパーにつくことが多い)
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排便後もズキズキとした痛みがしばらく続くことがある
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慢性化すると肛門ポリープ(見張りいぼ)や潰瘍、肛門狭窄を伴うこともある
原因としては、以下が挙げられます。
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便秘や硬い便による肛門への物理的な負担
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下痢による頻繁な排便刺激
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妊娠中や出産時のいきみによる肛門へのダメージ
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長時間の座位や冷えによる血行不良
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肛門括約筋の緊張が強い
ワセリンは切れ痔に効く?医師の見解
ワセリンは切れ痔の「症状を和らげる」ために有効な皮膚保護剤として使われることがあります。ワセリン自体に治療効果や抗炎症作用はありませんが、患部を覆って保護し、排便時の摩擦を軽減することで、痛みや悪化を防ぐ補助的な役割を果たします。
ただし、切れ痔が出血を伴っていたり、慢性化している場合には、ワセリンだけでの完治は期待できません。あくまで「一時的な保護」「悪化予防」の手段であり、症状が強い場合や長引く場合には、必ず医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
ワセリンの主な効果
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肛門周囲の皮膚表面に膜を作り、皮膚を保護する
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排便時の摩擦や刺激をやわらげ、痛みを軽減する
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傷口に便が直接触れるのをある程度防ぐ
ワセリンの正しい使い方と注意点
ワセリンを切れ痔のケアに使用する際は、清潔な状態で適切に塗布することが大切です。間違った使い方をすると、かえって悪化させてしまうこともあります。
ワセリンはあくまで皮膚を保護する目的で使うものです。使い方を誤らず、症状に応じて適切に活用しましょう。
正しい使い方
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入浴後など、肛門周囲が清潔な状態で使用する
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米粒大ほどの量を指先に取り、肛門の入口付近の内側から周囲にかけてやさしく塗る
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排便前に塗ると、摩擦の軽減に役立つ
注意点
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奥まで塗り込む必要はありませんが、傷がある入口付近をカバーするように塗ると効果的です
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不衛生な手での使用は感染の原因になるため、手洗いを徹底
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使用しても改善が見られない場合は、自己判断で続けず医療機関を受診する
切れ痔の時に行いたい生活習慣の改善
ワセリンは切れ痔の一時的な保護として有効ですが、根本的な改善には便通の正常化や生活習慣の見直しが欠かせません。以下のような対策をあわせて行うことで、症状の改善と再発防止が期待できます。
排便習慣の改善
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毎日決まった時間にトイレへ行く習慣をつける
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長時間のいきみやスマホ使用を避け、排便は3分以内を目安に短時間で済ませる
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便意を我慢しない
食事の工夫
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便を柔らかく保つために、水溶性食物繊維を多く含む食品(海藻類、果物、オートミール、こんにゃく、里芋など)を積極的に摂取する
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水分を1日1.5~2リットルを目安にこまめに補給する
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アルコールや刺激物(香辛料、カフェインなど)は控える
運動・その他
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軽いジョギングやウォーキングなどの有酸素運動を継続する
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お尻を冷やさないようにする(冷えは血流を悪化させます)
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デスクワーク中は定期的に立ち上がる
切れ痔は「便が硬い」「肛門が傷つく」「血流が悪く治りにくい」という悪循環で慢性化します。
便を柔らかく保ち、血流を良くし、排便時の負担を減らす生活習慣が治療と再発予防のカギです。これらの習慣を日常的に取り入れることで、切れ痔を治す力を高め、再発しにくい体質づくりにもつながります。
医療機関を受診するべきタイミング
切れ痔は軽度であれば自然に治ることもありますが、以下のような場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
排便時の出血は大腸がんや炎症性腸疾患など、重大な病気が原因であることもあります。
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出血の量が多い、または毎回出血する
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1週間以上、痛みや出血などの症状が続いている
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強い痛みで排便がつらい
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便そのものに血が混じる、あるいは黒い便が出る
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肛門にしこりや腫れを感じる
恥ずかしさや不安から受診をためらう方も多いですが、早期の対応が症状の悪化を防ぎ、短期間での回復につながります。当院ではプライバシーに配慮した診療を行っておりますので、安心してご相談ください。
まとめ|ワセリンはあくまで応急処置
ワセリンは切れ痔の症状を一時的に和らげる応急処置として有効ですが、「治療薬」ではありません。皮膚表面を覆って保護し排便時の摩擦や刺激を軽減することで痛みを軽減する効果はありますが、出血や慢性的な症状を根本的に治す力はないため、過信は禁物です。
切れ痔の改善には、排便習慣・食生活・運動・ストレス管理など、日常生活の見直しが欠かせません。また、症状が長引く場合や、出血・痛みが強い場合は、専門の医師による診察を受けることが最も大切です。
市販薬やワセリンで対応していても、実は別の病気が潜んでいるケースもあります。恥ずかしがらずに相談することが、早期発見と回復への第一歩となります。
「良くならない」と感じたら、迷わず医療機関を受診しましょう。当院では丁寧でわかりやすい説明と、患者様に寄り添った診療を心がけています。
よくある質問
はい、市販の白色ワセリンで問題ありません。精製度が高く、皮膚への刺激も少ないため、肛門周囲にも安全に使えます。ただし、無香料・無添加の製品を選ぶようにしましょう。
基本的には朝の時間と就寝前の1日2回が目安です。排便のたびに使用しても構いませんが、清潔な状態で使用することが大切です。
ワセリンは全身に使用可能な皮膚保護剤であり、妊娠中にも使用可能です。ただし、症状がひどい場合は自己判断せず、医師に相談してください。
誤った使い方(不衛生な手での塗布や塗りすぎ)をすれば、細菌感染のリスクがあります。正しい方法で清潔に使用しましょう。
切れ痔は傷が治っても傷跡(瘢痕)が残り、皮膚や粘膜が硬くなるため、再び裂けやすく再発しやすい病気です。再発を防ぐには、便を柔らかく保つことや、排便時の負担を減らす生活習慣の改善が大切です。