2026年9月20日
食後に胃がもたれる、少量で満腹になる、お腹が張る、便が出にくいと、「胃腸の動きが悪いのでは」と感じるかもしれません。ただし、胃腸の動きが悪いと感じても、実際に食べ物を送る運動が低下しているとは限りません。
胃腸の動きが悪い状態には、機能性ディスペプシア、胃排出の遅れ、便秘、薬の影響などが含まれますが、胃酸や内臓知覚過敏、ストレスが症状に関係する場合もあります。胃腸の動きが悪いと思って自己判断で薬を続ける前に、症状の原因と経過を整理することが大切です。

胃腸の動きが悪いと感じるとき
胃もたれや便秘があっても、症状だけで「ぜん動運動が低下している」とは診断できません。胃の不調と腸の不調を分け、食事、服用薬、ストレス、基礎疾患を確認し、警告症状があれば消化器内科を受診します。
| 主な症状 | 考えられる状態 | まず確認すること |
| 食後の胃もたれ、早期満腹感 | 機能性ディスペプシア、胃排出遅延など | 食事量、吐き気、体重変化 |
| 吐き気、嘔吐、長く続く満腹感 | 胃不全麻痺、通過障害など | 糖尿病、手術歴、服用薬 |
| 便が硬い、出しにくい | 慢性便秘症、排便障害など | 便の形、回数、残便感 |
| 下痢と腹痛を繰り返す | 過敏性腸症候群、炎症など | 血便、発熱、夜間症状 |
ぜん動運動とは、消化管の筋肉が内容物を先へ運ぶ動きです。ただし、胃には食べ物を受け入れてためる、細かく砕く、十二指腸へ送り出すという複数の機能があります。
腸では、内容物を運ぶ力だけでなく、便の水分量や、直腸・肛門から排出する働きも重要です。このため、「動きが悪い」という言葉だけでは、どの臓器のどの機能に問題があるかは分かりません。
症状の強さと実際の胃排出速度が一致しないこともあります。検査で明らかな運動低下がなくても、胃もたれや満腹感などの不調を感じる方はいます。
胃と腸ではなぜ症状の仕組みが異なる?
胃もたれ、みぞおちの痛み、吐き気は上部消化管の問題を、便秘や下痢は大腸・直腸の問題を中心に考えます。症状が重なることもありますが、一つの「胃腸虚弱」としてまとめないことが重要です。
-
胃の症状
食後のもたれ、早期満腹感、みぞおちの痛み、吐き気 -
腸の症状
腹部膨満、便秘、残便感、下痢、排便に伴う腹痛 -
共通する要因
食事、薬、ストレス、感染後の変化など
胃の症状|機能性ディスペプシアと胃不全麻痺
胃カメラなどで症状の原因となる胃潰瘍や胃がんが見つからないのに、食後の胃もたれ、早期満腹感、みぞおちの痛みや灼熱感が慢性的に続く病気を、「機能性ディスペプシア(FD)」と呼びます。
FDでは、胃・十二指腸の運動異常が関係する方もいますが、それだけが原因ではありません。胃が食事に合わせて広がりにくい状態、少ない刺激を強く感じる内臓知覚過敏、胃酸、感染性胃腸炎後の変化、心理社会的な要因などが複合すると考えられています。
したがって、「胃カメラで異常がない=気のせい」ではありません。検査で形の異常がない場合も、症状に応じた病名を付けて治療します。
一方、胃不全麻痺は、胃の出口に物理的な詰まりがないにもかかわらず、食べ物が胃から出る速度が客観的に遅れている状態です。食後も長く満腹感が残る、少量しか食べられない、吐き気や嘔吐、上腹部の痛みなどがみられます。
症状だけではFDと区別できません。内視鏡や画像で狭窄などを除外し、必要に応じて胃排出能検査で遅れを確認します。糖尿病、上部消化管の手術、神経疾患などが原因となるほか、原因が分からない場合もあります。
腸の症状|慢性便秘症と過敏性腸症候群
便秘は、大腸の動きが遅い場合だけではありません。便が硬く排便回数が少ない「排便回数減少型」と、強くいきんでも出にくい「排便困難型」では、必要な対策が異なります。
慢性便秘症は、便秘が続くことで日常生活や身体に支障をきたし得る病態と定義されています。排便回数だけでなく、硬便、強いいきみ、残便感、肛門付近の詰まり感なども診断に関係します。
腹痛が排便と関係し、便秘や下痢を繰り返す場合は、過敏性腸症候群の可能性もあります。下痢は「腸の動きが弱い」とは限らず、通過の速さ、感染、炎症、薬の影響など、さまざまな原因で起こります。

胃腸の不調を起こす主な原因
原因は、機能性疾患、全身の病気、薬、生活習慣、ストレスなど多岐にわたります。特に、新しく始めた薬、糖尿病、手術歴、体重減少の有無は、診断の手がかりになります。
| 分類 | 主な例 | 注意点 |
| 機能性疾患 | FD、過敏性腸症候群、機能性便秘 | 形の異常がなくても症状は起こる |
| 全身・消化器の病気 | 糖尿病、甲状腺機能低下症、潰瘍、がん、炎症 | 基礎疾患の治療が必要な場合がある |
| 薬 | オピオイド、一部の抗コリン薬・抗うつ薬、GLP-1受容体作動薬など | 自己判断で中止しない |
| 生活・心理面 | 食べ過ぎ、睡眠不足、運動不足、ストレス | 単独の原因と決めつけない |
病気や薬による影響
糖尿病、甲状腺機能低下症、一部の神経・自己免疫疾患、腹部手術後では、消化管の運動機能に影響が出る場合があります。
オピオイド、一部の抗コリン薬・抗うつ薬、糖尿病や肥満症の治療に使われるGLP-1受容体作動薬などは、胃排出を遅らせたり、吐き気や便秘を起こしたりすることがあります。
近年ではオゼンピック、トルリシティ、マンジャロなどのGLP-1受容体作動薬をダイエット目的に使用している方が副作用を発現し受診するケースも少なくありません。
市販薬やサプリメントも含め、症状が始まった時期と、薬を開始・増量した時期を確認してください。また処方薬については、症状があるからといって薬を自己判断で休薬せず、処方した医師へ相談しましょう。
ストレスと自律神経の関係
脳と消化管は、神経やホルモンを介して互いに影響し合っており、これを脳腸相関と呼びます。強いストレスや不安があると、胃腸の運動だけでなく、同じ刺激をどの程度つらく感じるかも変化する可能性があります。
一方、「自律神経が乱れているから」と説明するだけでは、胃潰瘍、がん、糖尿病、薬剤性などを見逃すおそれがあります。ストレスが誘因と思われても、症状が続く場合はほかの原因を確認することが大切です。
食事・生活による改善法と治療
全員に共通する「胃腸を動かす食べ物」はありません。胃の症状には少量ずつの食事、便秘には便の状態に合う食物繊維や薬など、症状と病名に応じて改善法を選びます。
-
一度に食べ過ぎず、症状が強い時は少量に分ける
-
脂肪の多い食事など、自分の症状を悪化させる物を控える
-
便秘では食物繊維を急に増やさず、張りをみながら調整する
-
睡眠、運動、排便の時間を無理のない範囲で整える
-
市販薬を長期に続ける前に、原因と薬の種類を確認する
食事は症状に合わせて調整する
胃もたれや早期満腹感が強い時は、一度の食事量を減らし、よくかんで食べます。脂肪の多い食事で症状が悪化する方は、つらい時期だけ控えめにしましょう。
ただし、極端な食事制限を長期間続けると、栄養不足につながる可能性があります。食事量が減り、体重も減っている方は、医師や管理栄養士へ相談してください。胃不全麻痺では、小さく柔らかくした食事や低脂肪食が検討されますが、すべての胃もたれに同じ食事療法が必要なわけではありません。
便秘では、野菜、果物、大麦などから食物繊維をとる方法が役立つことがあります。一方、お腹の張りが強い方では、急な増量で苦しくなる場合があります。胃の症状と腸の症状を分け、少しずつ調整しましょう。
薬物療法は病名ごとに異なる
FDでは、日本消化器病学会のガイドラインで、酸分泌抑制薬、消化管運動機能改善薬のアコチアミド、漢方薬の六君子湯などが一次治療として位置づけられています。ピロリ菌感染が確認された場合は除菌を行い、その後の症状経過を評価します。
胃不全麻痺、慢性便秘症、過敏性腸症候群では、使用する薬が異なります。吐き気止めは吐き気を軽くしても、必ずしも胃排出を改善する薬ではありません。便秘薬も、排便回数が少ないタイプと、出口で出しにくいタイプでは選択が変わります。
「胃腸を動かす薬」を一律に選ぶのではなく、専門医が原因や症状、服用中の薬に合わせて治療法を検討します。
病院を受診する目安と必要な検査
黒色便、吐血、繰り返す嘔吐、体重減少、貧血、飲み込みにくさ、強い腹痛がある場合は、早めの評価が必要です。症状だけで検査を決めず、年齢、経過、家族歴、服薬歴も含めて判断します。
-
黒くタール状の便、吐血、冷や汗やふらつきがある
-
食べられないほどの吐き気・嘔吐や脱水がある
-
意図せず体重が減る、貧血を指摘された
-
食べ物がつかえる、飲み込みにくい
-
強い腹痛や腹部膨満があり、便やガスが出ない
緊急性の高い症状
突然の強い腹痛、お腹が大きく張って便やガスが出ない、嘔吐を繰り返す場合は、腸閉塞などの可能性があります。吐血、黒色便、意識が遠のくようなふらつきがある場合も、通常の外来を待たず救急受診を検討してください。
元気に見えても、食事量の低下や体重減少が続く場合は、栄養状態の悪化につながることがあります。高齢になって初めて症状が出た方、胃がん・食道がんの家族歴がある方、症状が数週間続く方も、消化器内科へ相談してください。日本消化器病学会のFD診療ガイドラインでも、体重減少、反復する嘔吐、出血、嚥下障害、発熱などを警告徴候として挙げています。
胃カメラ・血液検査
問診察では、症状と食事の関係、便通、服用薬、糖尿病や手術歴を確認します。必要に応じて血液検査、ピロリ菌検査、腹部超音波検査やCTを組み合わせます。
胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)は、胃潰瘍、胃がん、胃の出口の狭窄などの異常を確認します。胃カメラだけで胃の排出速度を測定することはできません。胃排出能検査は一部の限られた施設でのみ実施可能で、当院では行うことはできません。
便秘や血便が中心の場合は大腸カメラを考慮しますが、年齢、血便、貧血、体重減少、大腸がん検診歴などをもとに、医師が適応を判断します。
よくある質問
気のせいとは限りません。慢性的な胃もたれやみぞおちの痛みがあり、症状の原因となる病気が見つからない場合は、FDという病名で診断・治療することがあります。ただし、胆のう・膵臓の病気や薬の影響なども必要に応じて確認します。
ピロリ菌陽性の場合は、胃がんや消化性潰瘍の予防も考慮して除菌を検討します。除菌後、半年から1年かけて症状が消失または改善した場合は、ピロリ菌関連ディスペプシアと判断しますが、すべての方の症状が改善するわけではありません。
似た症状でも、FD、胃不全麻痺、慢性便秘症、過敏性腸症候群では適した薬が異なります。市販薬で一時的に楽になっても原因は確定できません。効果が乏しい、長期服用が必要、ほかの薬も飲んでいる場合は、医師や薬剤師へ相談してください。
医師監修コメント
診療現場では、「胃カメラは正常なのに食後ずっと苦しい」「胃腸が止まっている感じがする」「元気ではあるが、少量しか食べられない」といった相談をよく受けます。実際には、胃排出の遅れだけでなく、胃が十分に広がらない状態や内臓知覚過敏、便秘、薬、ストレスが重なっていることもあります。症状を一つの言葉で片付けず、食事との関係、体重、便通、服用薬を具体的に伝えることが診断の助けになります。
※上記は特定の患者さんの体験談ではなく、診療現場でよく確認する内容を一般化したものです。
まとめ
「胃腸の動きが悪い」は病名ではなく、胃もたれ、吐き気、便秘などの背景には複数の仕組みがあります。食事や生活を調整しても症状が続く場合は、自己判断で薬を増やさず消化器内科へ相談してください。
日本橋人形町消化器・内視鏡クリニックでは、胃もたれ、みぞおちの痛み、吐き気、便秘、下痢などの消化器症状を診療しています。必要に応じて血液検査、胃カメラ、大腸カメラなどを検討し、検査の必要性は症状や既往歴を踏まえて医師が判断します。
【免責事項】本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状が続く場合や強い症状がある場合は、医療機関へご相談ください。
参考・出典元
-
日本消化器病学会. 機能性消化管疾患診療ガイドライン2021―機能性ディスペプシア(FD)(改訂第2版). 2021.
-
日本消化器病学会. 患者さんとご家族のための機能性ディスペプシアガイド2023. 2023.
-
Staller K, Parkman HP, Greer KB, et al. AGA Clinical Practice Guideline on Management of Gastroparesis.Gastroenterology. 2025;169:828-861. DOI: 10.1053/j.gastro.2025.08.004.
-
Ihara E, et al. Evidence-Based Clinical Guidelines for Chronic Constipation 2023. Digestion. 2025;106:62-95. DOI: 10.1159/000540912.



