2025年3月10日
「お腹が痛い」「吐き気がする」「下痢が止まらない」このような症状に悩まされた経験は誰にでもあるのではないでしょうか?
これらの症状は、胃腸炎と呼ばれる病気の代表的なサインです。
胃腸炎の原因はさまざまで、ウイルスや細菌による感染性胃腸炎、ストレスや薬の影響による非感染性胃腸炎など、種類によって特徴や治療法が異なります。「ただの食あたり」と自己判断してしまうと、適切な対処が遅れ、症状が悪化することもあります。
この記事では、胃腸炎の種類、原因、症状、治療法、予防法などをわかりやすく解説し、皆さんの健康管理に役立つ情報をお届けします。

胃腸炎とは?
胃腸炎とは、胃や腸の粘膜に炎症が起こることで、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢、発熱などの症状を引き起こす病気です。原因はさまざまで、大きく分けると感染性胃腸炎と非感染性胃腸炎の2種類があります。一般的に「胃腸炎」と呼ばれるものは、ウイルスや細菌、寄生虫などの病原体による感染性胃腸炎を指すことが多いです。
感染性胃腸炎の主な原因としては、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルス感染、サルモネラ菌やカンピロバクターなどの細菌感染が代表的です。
これらの病原体に汚染された食品や水を摂取することで感染する経口感染、ウイルスや細菌が付着した手や物を介して、口に入る接触感染、嘔吐した際やトイレを流した際に、ウイルスが空気中に飛び散り、それを吸い込むことで感染する飛沫感染が主な感染経路です。
胃腸炎になると、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐などの症状が現れ、日常生活に支障をきたすこともあります。
特に、乳幼児や高齢者、基礎疾患のある方は重症化しやすいため注意が必要です。脱水症状を引き起こすこともあり、適切な水分補給が重要になります。
また、感染性胃腸炎は中でも、特にウイルス性胃腸炎は非常に強い感染力を持っていることが多く、家族や学校、職場などで一気に広がることが多いです。周囲への感染拡大を防ぐためにも、適切な予防対策を取る必要があります。
感染性胃腸炎の種類と原因
感染性胃腸炎は、その原因によって大きく以下の3つの種類に分けられます。
感染性胃腸炎の種類
- ウイルス性胃腸炎
ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなど、さまざまなウイルスが原因となります。特にノロウイルスは感染力が非常に強く、冬季(11月~3月頃)に流行しやすいのが特徴です。わずか 10~100個のウイルスで感染するため、家族や学校、職場、施設などでの集団感染が起こりやすいのが特徴です。 - 細菌性胃腸炎
サルモネラ菌、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌O157など、さまざまな細菌が原因となります。これらの細菌は、汚染された食品や水から感染することが多く、食中毒の原因となることもあります。 - 寄生虫性胃腸炎
アメーバ、アニサキス、ジアルジア(ランブル鞭毛虫)など、寄生虫が原因となります。アメーバ大腸炎(アメーバ赤痢) とは、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica) という寄生虫によって引き起こされ、血便や腹痛、下痢などの症状を引き起こします。海外渡航歴がある人や、男性同性愛者(MSM)、免疫力の低下した人(HIV感染者など)にもリスクが高いとされています。アニサキスはサバやイカなどの魚介類に寄生しており、生食によって感染します。アニサキスの幼虫が胃の壁に入り込み、激しい胃痛を引き起こす胃アニサキス症が最も有名ですが、より激しい症状を呈する腸アニサキス症では腸閉塞を起こす場合もあります。
代表的な感染性胃腸炎の原因別に、具体的な感染経路や特徴をまとめた表を作成しました。
感染性胃腸炎の原因別、感染経路と特徴
原因 | 感染経路 | 特徴 |
ノロウイルス | 接触・飛沫・経口感染 (感染者の糞便や嘔吐物からの感染、汚染された食品) | 感染力が非常に強く、嘔吐・下痢・腹痛が主症状。 少量のウイルスでも感染する。 冬季に流行しやすい。 |
ロタウイルス | 飛沫・経口感染 (感染者の糞便からの接触・飛沫・汚染食品) | 乳幼児に多く、重症化しやすい。 重度の水様性下痢・脱水症状が特徴。 冬季に流行しやすい。 |
サルモネラ菌 | 経口感染 (生焼けの肉、生卵、汚染食品などの摂取) | 発熱、腹痛、下痢などの症状を引き起こし、感染力が強い。 |
カンピロバクター | 経口感染 (加熱不足鶏肉、飲料水などの摂取) | 鶏肉を加熱不十分で食べると感染。 長い潜伏期間(2~7日)で下痢・腹痛を伴う。 時に発熱や血便症状を引き起こす。 |
アメーバ (赤痢アメーバ) | 経口感染 (汚染された水・食品・性的接触) | 慢性的な下痢や血便。 海外旅行者や男性同性愛者に多く、肝膿瘍を引き起こすことも。 |
アニサキス | サバ、イカなどの魚介類の生食 | 激しい腹痛を引き起こすことが多い。 |
感染性胃腸炎の症状
感染性胃腸炎の主な症状は以下の通りです。
- 腹痛
みぞおちや下腹部などに、キリキリとした痛みや、鈍い痛み、差し込むような痛みなど、様々な痛みを感じます。 - 下痢
水のような下痢や、血が混じった下痢など、症状は様々です。 - 吐き気・嘔吐
吐き気や嘔吐は、胃腸炎の初期症状としてよく見られます。 - 発熱
発熱は、体内に侵入した病原体と戦うために起こる防御反応です。 - 食欲不振
胃腸の不調により、食欲がなくなったり、食べ物を消化することが難しくなったりします。 - 倦怠感
体のだるさや疲労感を感じることもあります。
これらの症状は、原因となる病原体や、個人の体力、免疫力などによって異なります。例えば、ノロウイルスによる胃腸炎では、激しい嘔吐と下痢が起こることが特徴です。
一方、ロタウイルスによる胃腸炎では、発熱と水様性の下痢が主な症状です。
また、細菌性胃腸炎では、高熱や血便を伴うこともあります。
胃腸炎の症状が重い場合や、長引く場合は、医療機関を受診するようにしましょう。
感染性胃腸炎の治療法
感染性胃腸炎の治療は、原因や症状に合わせて行われます。
基本的には、脱水症状を防ぐための水分補給と、症状を和らげるための対症療法が中心となります。
通常、3~7日程度で回復することが多いです。
- 水分補給
下痢や嘔吐によって失われた水分や電解質を補うために、経口補水液やスポーツドリンクなどをこまめに摂取することが重要です。 - 対症療法
吐き気や嘔吐がひどい場合は、吐き気止めや制吐剤を処方することがあります。
また、腹痛が強い場合は、鎮痛剤を使用することもあります。
細菌性胃腸炎の場合には、抗菌薬が処方されることもあります。 - 食事
消化の良いものを少量ずつ食べるようにしましょう。
おかゆ、うどん、白身魚、豆腐など、刺激の少ないものがおすすめです。
脂っこいものや辛いものは避け、カフェインやアルコールも控えるようにしましょう。 - 安静
十分な睡眠と休息をとり、体力の回復に努めましょう。 - 医療機関の受診
症状が重い場合や、長引く場合は、医療機関を受診するようにしましょう。 特に、脱水症状がひどい場合や、血便がある場合は、早急に医療機関を受診する必要があります。
胃腸炎の予防法
胃腸炎を予防するためには、以下の点に注意することが大切です。
- 手洗いの徹底
トイレの後、食事の前、調理の前後には、石鹸と流水で丁寧に手を洗いましょう。
ノロウイルスなどのウイルスには、アルコール消毒だけでは効果が薄いため、流水と石鹸での手洗いが重要です。 - 食品の衛生管理
食材は十分に加熱調理し、生ものは避けましょう。特に、肉や魚、卵などは中心部までしっかり火を通すようにしましょう。
生野菜は流水でよく洗い、調理器具も清潔に保ちましょう。
カキなどの二枚貝は、ノロウイルスなどのウイルスに汚染されている可能性があるため、生食は避け、中心部まで十分に加熱しましょう。 - 感染者との接触を避ける
胃腸炎の患者との接触はできるだけ避けましょう。
特に、嘔吐物や便の処理する際は、使い捨て手袋・マスクを着用し、ペーパータオルなどで拭き取った後に、次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒することが有効です。アルコール消毒のみでは一部のウイルスには不十分なことがあり注意が必要です。 - 適切な環境の維持
室内の換気をこまめに行い、清潔な状態を保ちましょう。
特に、トイレや洗面所などは、こまめに清掃・消毒を行いましょう。 - ワクチン接種
乳幼児で重症化しやすいロタウイルス胃腸炎はワクチンで予防することができます。生後6週〜14週6日までに初回の接種を行います。
医療機関を受診すべき目安
胃腸炎は、軽症であれば自宅で安静にしていれば自然に治癒することもありますが、症状によっては医療機関を受診する必要があります。
特に以下の症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
- 高熱が続く
38度以上の高熱が続く場合は、脱水症状や他の病気を併発している可能性があります。 - 血便が出る
血便は、細菌性胃腸炎で起こる場合もありますが、虚血性腸炎や潰瘍性大腸炎など、他の病気に由来する症状の場合もあり、注意が必要です。 - 激しい腹痛がある
激しい腹痛は、腸閉塞や虫垂炎などの他の病気を示唆している可能性があります。痛みが激しい場合は、即日精密検査が可能な高次医療機関の受診が望ましいでしょう。 - 嘔吐がひどい
嘔吐がひどくて水分が摂取できない場合は、脱水症状になる危険性があります。 - 脱水症状の兆候がある
脱水症状の兆候としては、口の渇き、尿量の減少、めまい、ふらつきなどがあります。 - 症状が長引く
1週間以上症状が続く場合は、他の病気を併発している可能性があります。 - 乳幼児や高齢者
乳幼児や高齢者は、重症化しやすいため、早めに医療機関を受診することが大切です。
医療機関では、診察、血液検査、便検査などを行い、原因を特定し、適切な治療を行います。
脱水症状がひどい場合は、点滴による水分補給を行うこともあります。 自己判断で市販薬を服用するのではなく、医療機関を受診して適切な治療を受けるようにしましょう。
よくある質問
Q. 胃腸炎になったら、どんな食事をすれば良いですか?
A. 消化の良いものを少量ずつ食べるようにしましょう。おかゆ、うどん、白身魚、豆腐など、刺激の少ないものがおすすめです。脂っこいものや辛いものは避け、カフェインやアルコールも控えるようにしましょう。
Q. 市販の胃腸薬を飲んでも良いですか?
A. 市販薬を服用する場合は、薬剤師に相談するか、用法・用量を守って服用しましょう。ただし、感染性胃腸炎の場合、下痢止めの内服はかえって症状を悪化させるため、自己判断での使用は控えた方が良いでしょう。また、症状が重い場合や、長引く場合は、自己判断で市販薬を服用するのではなく、医療機関を受診するようにしましょう。
Q. 感染性胃腸炎は人にうつりますか?
A. はい、感染性胃腸炎は、人にうつります。特に、ノロウイルスやロタウイルスによる胃腸炎は感染力が強く、感染者の糞便や嘔吐物から感染するため、トイレの後や食事の前には必ず流水と石鹸で手を洗いましょう。
Q. いつまで仕事を休むべきですか?
A. 症状の程度や仕事内容にもよりますが、一般的には、症状さえ落ち着いていれば、仕事を必ずしも休まなければいけないということはありません。ただし、腸管出血性大腸菌感染症(O-157)など一部の感染力の強い感染症については、医師が感染の恐れがなくなったと診断するまで休みことが必要です。また、食品を扱う仕事や、保育士さんなど人と接する機会が多い仕事の場合は、周囲への感染拡大を防ぐためにも会社で個別に規定がある場合がありますので、必ず確認するようにしましょう。
まとめ
この記事では、胃腸炎の種類、原因、症状、治療法、予防法などについて解説しました。
胃腸炎は、ウイルスや細菌などによって引き起こされる、身近な病気です。腹痛、下痢、吐き気、嘔吐などの症状が現れ、日常生活に支障をきたすこともあります。
正しい知識を持ち、適切な対策を講じることで、胃腸炎の予防や早期回復が可能です。特に、手洗いの徹底や食品の衛生管理など、基本的な衛生習慣を心がけることが重要です。
また、症状が重い場合や、長引く場合は、自己判断で対処せず、医療機関を受診するようにしましょう。